ポートレートコラム
作曲家
平野義久
Photo/Write : Tetsuya Hara
「敵わない…」私は写真を撮る時、常に被写体との真剣勝負だと感じている。平野さんに対峙した瞬間に負けを悟った。人間としての深さが圧倒的に違うのだ。己を信じ、自らの手で切り拓いてきた彼の世界は手を変え品を変え、流れをこちらに引き寄せようしたところで微動だにしない。彼の座る、ホールの赤い座席が大きな炎のように見えた…私が負けを認めた瞬間、彼はレンズ見据えながらニヤリと笑った気がした。「作り手の熱意に深く共鳴したり、共感したりできるかが自分が参加するかどうかの決め手になりますね」インタビュー中に彼がこう話していたことを思い出し、 私はシャッターを押し続けた。最後に椅子から立ってもらいもう一度、正面から対峙した。先程と違い、ほんの少しだが笑顔が見えた。私に何かを伝えようとするような笑みだった。 帰り道、アーティストの端くれとして彼に一歩でも近づけるようにシャッターを押し続けることを誓った。