フォトグラファーのピックアップコラム
株式会社itty selection
代表取締役 CEO

上村由依

私はスケジュールの関係上、インタビューの途中から現場入りとなった。挨拶もそこそこにフォトシューティングの時間になった。彼女と目が合った私は「屋上に行きましょう」と思わず口にしていた。撮影のプランをあまり綿密には練ることがない私は、特にどこで撮るのかを考えていなかったが、彼女の目をみたときに屋外に出ていきたくなった。彼女の後ろに続き、屋上へと向かう階段を登るとき、想像していたよりも彼女を小柄であると感じた。日本を窮屈に感じ、ニューヨークへと飛び出したという話を事前に聞いていたから余計にそう感じたのかもしれない。屋上への扉を開けた瞬間、五月の気持ちのいい風が流れた。私は屋上にして正解だったと思った。その場所には大きな机があり私と彼女は向い合わせに座った。うっすらとピンク色の髪の毛にふわりとした可愛らしい服装。ビジネスパーソンにはまず見えない。私はそんな彼女をもっと探りたくなり、ほんの少し意地悪な質問も交えながらいろいろなことを聞いた。そんななか、秘密を打ち明けるように彼女は言った「実は常に悩んでいます。でも悩むことはいいことだと思っています。悩めば悩むほど考えるようになる。考えることで成長できる。みんなもっともっと悩むべきだと思います。」私は質問をやめ、彼女を緑の前に立たせた。ファインダー越しにみる彼女は放つエネルギーもレンズをみつめる視線も強いものではなかった。言うならば、ただそこにある“今”をみつめ、“今”と同調していた。私は彼女に吸い込まれそうになりながらシャッターを押した。その瞬間、強い風が吹いた。その風がなにか大切なものを運んできたような気がした。「なんかミュージシャンやアーティストを撮っている感覚です。」と伝えると彼女は「昔、バンドやっていたんです。」と恥ずかしそうに言った。彼女はビジネスパーソンでありながら同時に力強く“今”をクリエイトしていくアーティストなのだ。屋上からみる五月の空は青く、広がっていた。

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