トマト農園のビニールハウスでのフォトシューティング…燃えさかるように真っ赤であった。トマトではない。先程のインタビューで穏やかに話していたはずの彼の瞳だ。その瞳は真っ直ぐにカメラのレンズを見据えた。ビニールハウスの中は少しだけ暑い。私の背中に一筋の汗が流れた。私は彼のエネルギーに一瞬、たじろぎそうになったが、彼はそんなことを気にする様子は微塵も無く一点を見据え続けた。私は彼の瞳の奥を覗いた。彼の瞳にはカメラのレンズなどまるで映ってないようだ。私は彼の燃えさかる魂を感じた。私は目を瞑った。もうファインダーを覗く必要はない。彼の魂に焦点に合わせるだけだ。私はシャッターを切った。最高の瞬間だ。液晶モニターを確認するまでもない。私には完璧な写真が撮れた確信があった…。撮影中、私は彼の絶対に忘れることができない過去の話を聞いた。彼がまだ中学生の頃、彼の母親は不慮の事故で命を失ったそうだ…。生前、母親は彼に「美味しいトマトをつくって成功してほしい…」と言い残したそうだ。その言葉は彼の魂の根源にあるのだろう。彼は強い覚悟を持ってトマトを作り続けるしかない…。「日本中に届くようなトマトをいっぱいつくりたい。そして美味しいと言ってもらいたい」そう語る彼のつくるトマトは真っ赤な熱い魂だ。撮影後、私は彼の作ったトマトを食べさせてもらった。真っ赤に実ったトマトは先程、撮影の時にみた彼の瞳のようだった。私は手に取った。ズシリと重みを感じた。そして一口かじった。とても美味しい。「美味しい」という漢字に「美」という漢字が入っている理由がその時わかった。それはとても美しい味だった。私は空を見上げた。雲ひとつない綺麗な空が広がっていた。その青空の元、真っ赤なトマトを囲んで皆が笑顔になっていた。