ポートレートコラム
株式会社人間味
代表取締役
栗田匠
Photo/Write : Tetsuya Hara
そこは有楽町にある緩やかな坂の上だった。私は彼の最高の一枚を撮るために「今、一番大切な人を頭に浮かべてレンズを見てください…」と指示をした。彼は何度もイメージしようと試みたがどうしてもうまく集中できない様子であった。私は「ごめんなさい。”今回”は栗田さんの本当にいい写真は撮れませんでした…もう一度、撮らせてください」と言った。「ありがとうございます。正直に話してくれて嬉しいです。その方が変に取り繕うよりいいです…」そう答える彼は「株式会社人間味」という少し変わった社名の会社の代表である「スマタイ」というネクタイのサブスクリプションサービスを運営している会社だ。私は多くの経営者をみてきたがヘアスタイルや服装からもわかるように彼はその誰とも違う、実に個性的な男だった。そして彼には彼を語る上でとても重要な性質があった。それは常に物事を客観的にまたは俯瞰して見ることだ。その物の見方が身についたのは、積極的に息子に対し目を向けるタイプではない父親に男手ひとつで育てられたからかもしれない。その性質は常に彼の人生に影響を及ぼした。例えば小2から高3までの11年間、本格的にやってきたサッカーでも全体を俯瞰して試合の流れをコントロールする司令塔的なポジションを得意としていた。サッカーだけではない。行動、仕事の仕方、人間関係などあらゆる点においてその視点で生きてきた。そんな彼が「人間らしい人間味溢れた仕事をしよう」という理念の会社を立ち上げた。これは彼の写真を撮ったことで感じた私の想像でしかないが、もしかすると彼は無意識に物事を客観視する性質を変えようとしているのかもしれない。「株式会社人間味」という会社名はその思いの表れのようにさえ思える。目の前の「人」「もの」「こと」「場所」を直視して情熱をもって愛する人間に彼はなろうとしているのではないだろうか。 「今、一番大切な人を頭に浮かべてレンズを見てください…」新しい彼は一体どんな顔をみせてくれるのだろう。私はその顔をイメージしながら顔を上げた。有楽町の空は青く大きく広がってみえた。