ポートレートコラム
トンガルマン株式会社 代表取締役社長
水野 博之
Photo/Write : Tetsuya Hara
フォトシューティングの時間だ。私はiPhoneで2000年代前半のダンスミュージックを流した。iPhoneから聴こえるチープだが、確かに刻まれるビートに彼は「ニヤリ」と笑った…。彼は「トンガルマン」という一風変わった社名の会社の経営者だ。私は数多くの経営者を撮影してきたが、彼はその誰とも違う空気を纏っていた。肩の力は抜けていているが、五感が立体的に張り巡らされているような鋭さを放っている。「ミュージシャンとかデザイナーみたいなクリエイターのような雰囲気ですね。」私は彼に伝えた。それもそのはず、彼は10代後半から20代と世界を目指す仲間たちと共にストリートダンスを踊る”表現者”だった。高校まで過ごした滋賀県の田舎町を飛び出し、様々な困難に遭いながらもステップを踏み続けるかのようにチャレンジ、チャレンジ、チャレンジを繰り返した。新しい価値観、視点、視野に触れながら、人生というステージで踊り続けた。村上春樹の小説「ダンスダンスダンス」にこんな一節がある『音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわかるかい?踊るんだ。踊り続けるんだ。何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。』iPhoneから聴こえるダンスミュージックのビートに合わせ、シャッターを切っていると私の脳裏にこの一節が浮かんだ。40代になった彼は最近、ダンスを再開したそうだ。私もSNSを通じてそのダンスを観させていただいた。彼はステージに立っている。深い沈黙の中、真新しいダンスミュージックが大音量で鳴り響いた。何にも囚われぬように自由に軽やかに五感を駆使し、彼は踊り続ける。『オドルンダヨ。オンガクノツヅクカギリ。』