ポートレートコラム
株式会社クラス
代表取締役社長
久保裕丈
Photo/Write : Tetsuya Hara
この一枚にはある秘密が隠されている…。今回のフォトグラファーピックアップコラムでは私がどのようにして”時代のKEY PERSON”を撮影しているのかを少しだけ話そうと思う。だが、その前に言っておかなければならないことがある。私は彼の大ファンだ。実は彼が出演していた『バチェラー』のファーストシーズンを全話通しで3周観ている。 当然、彼の撮影依頼が入ったときには声をあげて喜んだのだ。そして、インタビュー当日、胸を高鳴らせながら現場で待っていると彼がやってきた。そこで私のモードが瞬間的に変わる、ファンからフォトグラファーとなる。どんな相手でも撮影の時だけは対等なのだ。そしてインタビューが始まった。インタビュー中は邪魔にならないように写真を撮る。謂わば隠し撮りだ。私は意識を集中して彼の微妙な変化を逃さないように待つ。インタビューの前半に何枚か撮ってインタビューカットを終わりにするフォトグラファーもいるそうだが、私は絶対にしない。被写体の見たことのない表情がいつでてくるかわからないからだ。そしてフォトシューティングの時間になった。私は口を開くやいなや彼の目をみて言った「今までたくさん写真を撮ってきていると思いますが、今日は今まで撮った中で一番いい写真を撮ります」彼は少しびっくりした表情をした。そしてこの一枚。おこがましいようだが、私にしか撮れない一枚だ。彼はもちろん芸能人ではないが有名人の一人だ。写真も撮られることが多い。とても頭のいい彼は撮影者が撮りやすいようにシャッターに合わせて様々な表情をしてくれる。ポーズまでつけてくれるのだ。他のフォトグラファーならそのまま写真を撮って終わりにするのだろうが私は違う。その型を壊すことから始めるのだ。一定のリズムではシャッターを押さない。スムーズに撮影を進めない。勘がいい彼はいつもとは勝手が違うことに気づく。そこで私は説明する「写真に撮らることに慣れている人ほど、型がついていていつも同じ表情の写真になってしまうんです。僕はそれを壊してもう一歩、奥のあなたが撮りたい」撮影時間は残り10分。ようやく、準備運動は終わった。私は少しずつ指示の数を減らす…声も小さくなる…フォトグラファーの私も徐々に消えていく…そしてそこにはいなくなる…。カメラと彼のみになった。彼はカメラを通して自分と向き合う。じっとレンズの奥を覗く、シャッター音が鳴った。この一枚は彼に撮らせてもらった。余談だが、撮影を通して私に心を開いてくれたのか、彼はある秘密を打ち明けてくれた…。私の拙い文章よりもこの一枚をみてもらった方が彼の素晴らしさ、愛らしさ、もしかしたらその秘密さえもを読み取ってもらえるかもしれない。私の会心の一枚だ。