「妄想」すれば、クリエイティビティが発揮される。

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氏名 福垣慶吾
肩書 BnA株式会社 代表取締役
出生 1984年7月8日
ロサンゼルス出身。カリフォルニア州立工科大学卒業後、Gensler等を経て独立。建築、デザイン、都市開発、ウェブサービスなど、幅広い分野で活動。FacebookやPinterestなどのオフィス内装デザインも担当。2017年、Interior Design Magazineが選ぶ、"40 Emerging Interior Designers in the World"に選出。

何か特定のものにとらわれることのない自由なクリエイター。そして、純粋に世界平和を願って「妄想」し続ける地球人。そんな自然体の建築インテリアデザイナーの福垣慶吾氏がクリエイティビティについて語る。

日本とアメリカの文化のギャップを埋めながら、日本の良さを世界へ発信する

【インタビュアー:岡本康典】よろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介からお願いします。

【福垣慶吾(敬称略)】はい、本名は福垣慶吾で、ミドルネームがジュリアンです。ロサンゼルスで生まれ育って、日本に初めて住んだのが26歳の時で、今32歳です。それまではずっと海外にいて、大学で建築を勉強して、7年くらい仕事してから日本に来ました。ちょうど今、仕事を始めてから日本とアメリカの経験が同じくらいになりましたね。

親が日本人なので、日本語が普通に話せて、読み書きもできるので、アメリカから日本に引っ越してくるのもそんなに苦労しませんでした。ただ、カルチャー的に少し違う所もあるので、そういう中で仕事をしたり、新しいことをすることに対してギャップを感じながらも、そのギャップをうまく埋めるような仕事やアイディアを常に出していきたいなと思っています。自分としては、日本の素晴らしいところを少しリミックスするだけで、世界が日本の素晴らしいところに気付いてくれる、そんな可能性を毎日感じて仕事をしています。

ビデオゲームづくりからデザインに目覚めた

【岡本】小さい頃から元々、アートやデザインがお好きだったんですか?

【福垣】絵を描くのはずっと好きでした。元々自分は理系になるかなと思って、宇宙工学にもすごく興味ありました。ある日、友達とゴーカートのビデオゲームをつくろうとなって、そこで一番絵がうまい自分が3Dゲームのモデルをつくる係になったんですね。その時にデザインに目覚めました。当時、高校1年生くらいの時に「モノをデザインするのってこんなに楽しいんだ」ということに気付きました。

次の年は近くの大学でデザインのクラスに入れてもらい、高校生のうちから大学レベルのデザイン学科で学び始めました。すごく尖ったデザイン専攻の学生さんたちと一緒に学ぶことになって、自分も目指すところが見えたという感じですね。

アメリカとヨーロッパで建築・設計の仕事を

【岡本】大学を卒業されてからの最初の仕事は?

【福垣】大学在学中からアメリカの建築事務所アトリエで働き始めていました。2008年のリーマンショックで世界中どこも建築の仕事がほぼなくなった時期がありました。その時にちょうど大学卒業したので、ちょっと転職してみようとヨーロッパに行きました。1年間、業界ではすごく有名な「コープ・ヒンメルブラウ」という事務所で働きました。

その後、またアメリカに戻って大型の橋の設計をしました。そこはランドマークブリッジと呼ばれる、街のシンボルとなるような橋を設計する事務所でした。自分も2本大型の、サンフランシスコのベイブリッジという有名なやつと、ポートランドの方で1本新しい橋の設計に携わりました。その二つを完成させてから日本に来ました。

結構幅広く、大きなオペラ会場、橋、住宅の設計までをアメリカや海外にいた頃にある程度やりましたね。日本に来てからはインテリアをメインにやってます。一番大きい建築物から一番小さい建築物まで一通りやりたいというのが、30歳になるまでのゴールだったので、それをやりましたね。

境界線の無いデザイナーが理想

【岡本】広く「建築デザイン」なんですね。

【福垣】自分は建築とデザインというものは境界線がないと信じています。なので建築をやれば実際のプロダクトのデザイン、例えばドアのハンドルのデザインも全てデザインだと思っていて、それをやりたい。インテリアも橋の構造もやる、そういうデザイナーを目指してます。

【岡本】一般的にはそういう方は他にいらっしゃるんですか?

【福垣】多分いるとは思うんですけど、業種的に専門で切り分けられています。構造は構造、建築は建築、インテリアはインテリアというのが現代のデザインの役割分担みたいな形になっています。1950年より前は、建築って言うとそれを全部見るのが建築家だったので、自分はそちらの方に憧れがありますね。ヨーロッパの建築はいまだにそうだと思っていて、ヨーロッパの建築家は幅広くやっているというのが自分の認識です。自分もそういった形で「デザイン」という幅広い分野でやっていきたいなと思ってます。

時空間の共有からクリエイティビティが生まれる

【岡本】いろんなものを手掛けられてきて、それぞれ想いがあると思いますが、一番印象に残っている仕事や苦労したことはありますか?

【福垣】当時勤めていた日本の会社でFacebookさんのオフィスをデザインさせていただくことになったときのことです。Facebookさんの本社からの依頼が「日本のアーティストを集めてアートを収めてほしい」と。アートを会社に入れる本当の理由、会社の思想としての理由を聞いた時に、デザインはこういう所まで行かないといけないんだなってお客さんから気づかされました。

その本当の理由というのが、「綺麗なものが空間にあることが大事なのではない。そのつくり手と共有する空間だったり、つくっている間の時間を共有すること。それによってクリエイティブだったり新しい考え方だったりというものを空間を通してシェアできる」ということをFacebookの当時のクライアントさんが言っていました。

それでアーティストを集めましたが、実際に社員が働いている間に、オフィスの中で作品を施工してもらいました。そうすることによって社員もアーティストの仕事を見ながら働き、新しい空間の共有とか、そういったことをお客さんが求めていました。自分はそこからアートという世界に興味を持ち始めました。

どうしても建築家は、完成して綺麗な物を作るところにフォーカスしがちなんですが、そこに気付かされたのは創る過程もそうですし、使われていく過程の中でどういう使われ方をするかという仕組みをデザインすることによって、全く新しい文化みたいなものが生まれるんじゃないかと感じました。

その後は、デザインをしながらも、文化というか、使い方の仕組みにフォーカスして色々物をつくってます。ですので、このホテルもそうですが、宿泊者が泊まると一部が作家さんに戻るような仕組みからデザインして、そこから生まれる新しい空間づくりというのを考えてます。

仕組みから考えて使うデザインを発想する

【岡本】絵画のようにただ見て楽しむだけのものではなく、基本的にホテルとか橋とか「人が使うもの」のデザインなんですね。

【福垣】そうですね。そう考え始めた時に、スタイルだったり、自分のつくりたいものがすごく薄くなって、より使い手もしくはつくり手を重要視したデザインができるようになりましたね。

【岡本】それはかなり大きな変化だと思いますが、ビフォーアフターで仕事に具体的な変化はありますか?

【福垣】やっぱりつくっていくものすべてがとてもユニークなものになりましたね。見たことないもの。その用途によってデザインされるので。あとは仕組みからものを考えるということで、新しい可能性を感じるようなプロジェクトが多くなりました。都市開発だったりカルチャーづくりだったり、結構スケールの大きい仕事が増えてきました。

【岡本】そうすると求められるスキルや知識も、それまでにないものが求められるようになってきますね。

【福垣】はい。それと共に、今まで出会えなかった自分の業種を超えた範囲で色々な人と会話をしたりプロジェクトをしたりと、すごく多彩な人やコミュニティたちに囲まれるようになりました。ほぼ毎日がチャレンジですね。新しい知識と新しい協力者と、全く違う観点からフィードバックをもらいながら仕組みを考える毎日、というような感じですね。

多業種間からクリエイティビティが生まれる

【岡本】まさにクリエイティブな仕事なんですね。

【福垣】もう「こんなにクリエイティブか」って思うほど、多業種の人たちがアイディアを出すようなプロジェクトが増えてますね。ビジネスコンサルをやってた人だったり、アートディレクターだったり、都市開発をしているデベロッパーだったり、アーティストさんだったり、普段ならお互いに関りがないような人たちのアイディアを一度にまとめて雑談して仕組みから考える。そんなプロジェクトが増えてます。起業家も入ってたりするので、そういう場になると業種を問わず、クリエイティビティというのが出てくるような気がしています。

【岡本】直近では、どんな仕事をされてますか?

【福垣】都市開発のカルチャーづくりのリードや、外資のオフィス設計、その中で新しい働き方を考えたりしています。

【岡本】最近では「働き方改革」で新しい働き方が色々話題になっていますが、新しい働き方はどのように発想されてますか?

【福垣】まずは自分でやってみる形ではあると思いますが、新しい働き方をする会社とプロジェクトをやってみるとか。新しい最先端の技術を開発している会社の仕事をしたりとか。そういうことをやっていく中で見えてくる感じですね。

テクノロジーと設計で臨場感をつくる

【福垣】今、ひとつ新しい働き方を提案しようとしている会社の中で、テクノロジーを利用しようという会社のアイディア出しに参加しています。リモートワークが増えていくと思いますが、離れた場所でも臨時感あふれる働き方がこれからどんどん必要になってくると考えている会社があり、それをどうテクノロジーで実現するか。4Kを超える超大画面で二つの空間をつなぐことによって、等身大で人と会話ができるようなシステムをつくっている会社にアドバイザーとして関わらせていただいます。彼らが考える今後の世界だったり、テクノロジーを通した働き方を勉強してます。なので、書籍を読んだりとかいうよりも、実際のプロジェクトに参加することが一番の勉強になっています。

【岡本】それは、空間が繋がったような感じがするのでしょうか。

【福垣】そうですね。画面として繋がっているだけではなく、それ以上に臨場感をどうつくるかが空間デザイナーとしてお手伝いできるところなのかなぁと。例えば二人が同じコップを使っている場合。画面を通してお互いに使っているコップが同じだとすると、同じ空間にいるんじゃないかとか。そこはテクノロジーを超えた設計で補うことができるんじゃないか、光の加減が同じだったり、音の聞こえ方がこっちから聞こえたら繋がってるようになるんじゃないかとか、そういったところで自分の得意なスキルを適用しながら、彼らが考えている新しい働き方を勉強できると思います。今、そういうアドバイザー的な仕事を3つ4つやってるんですけど、そういったいろんな分野の人たちと仕事するのが一番の勉強になっています。

働き方が変われば、デザインも変わる

【岡本】やっぱりリモートワークが流れになってきている。

【福垣】そうですね、やっぱりテクノロジーが発展することによってコミュニケーションの速度が速くなる。後はデータの解像度がよくなることによって、物理的なものを補うことができ始めるので、そういったことができると時間の短縮や、時間を超えた働き方というのをみんな感じ始めているので、それを働き方にどう転用するかというところです。

例えばチャットは、会話が元の時間軸を超え始めているので、20個会話を同時にしていても、成り立つ世界になってきている。そういった中で、仕事をその20個の会話の中で進めていく。今までの仕事は「ここからここまでを何日までにやりましょう」だと思うんですけど、じゃあ会話と同じで一つずつ違う時間軸で進んでいく会話になっているとすると、仕事も大体同じ形で20個違う時間軸で仕事ができないとおかしいんじゃないかって感じ始めていると思うんです。

そうなってくると会社という形態すら変わっていくんじゃないか。20年かけてやる仕事もあれば、2日でやる仕事も両方もって仕事する人が出てきてもおかしくない。そうなるとリモートでもオフィスにいても、あまり問わなくてもいいような働き方が来ると思っています。一つの会社で働かず、三つ四つの会社で働いて、それぞれ違う働き方があるかもしれないですね。

仕組み、テクノロジー、デザインで信頼性を

【岡本】リモートとなった時に、そういうチャットだけだと繋がりが弱いと思うのですが。

【福垣】人間が働く中で凄く大事なのが信頼だったりするので、テクノロジーで信頼をどう補うのかというのが実は大きな課題です。信頼は解像度だけではできないことは分かってると思うので、仕組みの話になってきます。

【岡本】離れているけど一緒にいるかのような繋がりを一つ目指されているんですね。信頼やぬくもりを感じられるということが、テクノロジーだけでは難しいということですか?

【福垣】仕組みだけでも難しいだろうし、テクノロジーだけでも難しい。デザインだけでも難しい。そんなマルチな課題をすべてのプロジェクトで抱えているような気がします。

職住近接で共に過ごす時間をつくる

【岡本】マルチタスクな日々の中、どういう時間の使い方をされてるんですか?

【福垣】子どもが小さいので朝はなるべく子どもといる時間を取って、出社するのが10時くらいです。家も会社のすぐ近くにして、5分の所に住んでいます。会社もプロジェクトも、家族のようにできたら自分も働く時間を長くとれるし、働くモチベーションにもつながると思っています。

やっぱり日々の働きの中でも、そういったコミュニティづくりっていうのが本当に大事だと思っています。なので朝から子どもを保育園に預けて、夜仕事をしても会社がすぐ近いので夕食を一緒にできるように、歩いて帰って一緒に時間を過ごせるようにしてたり、いろいろ自分の暮らしにも新しい働き方を組み込んでいますね。

打ち合わせ、雑談がすごく多いです。実際に自分の手を動かせるのは夜、デザインをするのは夜の仕事になってます。日中はいろんな人とのコラボレーションの時間としてとってます。

【岡本】それがアイディアに繋がるという。

【福垣】はい。手を動かすころにはほぼほぼすべて決まっている状態なので、そんなに苦労はしないです。一人で迷っている時間はほぼないですね。逆にそうした方が、正しい物をつくっているような気がします。

まだ駆け出しで社員が少ないので、実際もう少し大きくなってくると、自分も手を動かす量が少し減るといいのかなと思ってますけど。若いうちにがーっと、いろんなプロジェクトと、いろんな人と関わるのにフォーカスしたいと思ってます。

多才な人たちとの会話から創造力が発揮される

【福垣】そうなったのはこの2年くらいですかね。色々な多彩な人たち、スキルの高い人たちと会話ができ始めてからですね。対話の中で、話している相手と同じレベルでものを創造できる人たちでないと会話が進まないので、業種は違っていても創造力は同じくらいの人が周りに集まっています。

自分よりすごい人を周りに置くことが一番大切になってきてますね。自分よりも創造力がある、自分よりも仕組みづくりができるとか。コラボレーションをする相手を選ぶというか、そういう人たちを常に周りに置いていることが本当に大事だと思っています。

【岡本】意識的にそういう風にされている。

【福垣】そうですね、意識的というか、半分無意識なんですけど。そういう人に興味を持ち始めたら、自然とそういう人たちしか周りにいないような状態になっています。

「自分の作品」でなはく「みんなのプロジェクト」

【岡本】他の建築のデザイナーの方との違いは何だと思いますか?

【福垣】デザイナーによりますが、多分みんなでつくろうと思っている人の方が少ないと思いますね。自分はプロジェクトを自分の作品と呼ばないようにしています。なぜなら全く自分の作品だと思っていないから。みんなのプロジェクトだと認識しています。

【岡本】昔は「作品」だったんですか?

【福垣】作品というような考えがありましたね。

【岡本】逆にもう今はそういう自分の作品をつくりたいというような欲求はあまりないですか?

【福垣】すごくスケールを小さくしてはあるんですけど、やっぱり仕組みの方が大事だなと思ってます。

【岡本】それは使う人、人ありきというか。「作品」だとどうしても自己満足になりがちだったり。

【福垣】エゴの方が強いなと感じています。

【岡本】「プロジェクト」と言う場合には、逆に自分のエゴみたいなのは一切入れないんですか?

【福垣】そうですね、自分は入れてないと思っているんですけれど。やっぱりスタイルというのは少しは出てきてしまうものだとは思います。ディテールでこういう納め方をするとかいうところで自分のスタイルは出てくるものなんですけど、そこを強調したいわけでもないですし、それは自分がプロジェクトの一員として関わった証であるだけだと思ってます。

どれだけ未完成のまま完成させるか

【岡本】そのあたりが特徴だったり強みなのかもしれないですが、他人から見た福垣さんの強みだとか仕事上の良さはどう認識されていますか?

【福垣】「福垣さんらしいですね」って言われることは多々あるんですけど。その上で具体的に何かのスタイルではなくて、何か抽象的な未完成度みたいなものが出ているんじゃないかと思っています。デザイナーとして未完成であるのは本来よくないことだと思うんですけれど、自分は逆に「自分がやらないからこそ他の人に余白が残せる」、そこが自分のデザイナーとしてのスタイルに出てきているのかなと思っています。「これ本当に終わってるの?」って思えるようなものを最近は創っていて、その余白があるからこそ、他の方々の力をそこに発揮できるんじゃないかなって思ってます。

【岡本】それは事前に意識されている。

【福垣】そうですね。やっぱり全員が共存できるような空間というのを考えた時に、自分のエゴを消していくと自然とそうなっていくと思います。実はそれがスタイルになってというのは意識的ではなく、結果としてそうなっているというような形になってますね。最近だと、「どれだけ未完成のまま完成させるか」ということを会話でしてたりするんですけど。

「自分のやりたいこと、自分を表現すること」が幸せに繋がる

【岡本】デザイナーの方って、やっぱり綺麗なものを作るとか、自分のこだわりをつくりたいという人が多い中で、そこが異色だなと思いますね。今後いろんな仕事を手掛けていかれると思いますが、一番大きなところで、人生の目的や仕事のビジョンを教えてください。

【福垣】自分は、今後世界は平和になっていくだろうという前提でビジョンをもっています。このまま世界がテクノロジーだったり文化の広がりによって平和になっていくのであれば、全員が自分なりのクリエイティブなことを仕事にして働いているような世界をつくるお手伝いをしたいと思っています。

【福垣】平和になって、テクノロジーも発展していくと、必然と辛い仕事だったりやりたくない仕事は減っていくと思った時に、「自分のやりたいこと、自分を表現すること」というのが、もっと幸せに繋がるんじゃないかと思っています。そういった世界をつくるのが自分のゴールなので、「余白」を残して物をつくるのがそこに繋がっていると思っています。

現状を新しく創造することがクリエイティビティ

【岡本】自分の良さやクリエイティビティを仕事に持ち込めたら楽しくなると思いますが、何かアドバイスできることはありますか?

【福垣】「自分が欲しいだけの余地をつくること」が満足と幸せに繋がるんじゃないかなと思っています。限られた中でやっていくっていうのは、どうしても不足を感じてしまうんじゃないかと思っているので。であれば、仕事の外で何かをやって、自分が満足できる余白を確保するのが一番いいんじゃないかな。

実際、働く環境の仕組みを変えられるのであれば、その余白を増やすためにクリエイティブになる、もしくは仕事の外で余白を取るために自分の時間を組み替えてクリエイティブになるとか。クリエイティビティって、物をつくるとか具現化することだと思われることが多いかもしれませんが、僕は逆に現状を新しく創造すること自体がクリエイティビティだと思っています。今働いている環境をもう一度創造し直してみる。そこから新しいことが生まれると思っています。

「妄想」のすすめ

【福垣】実は、今すごく大好きな言葉があります。「妄想」っていう言葉。何かを想像して、没頭するくらい、この世にないものを創造するっていうのが妄想だと思っています。それはとても日本的な言葉だと思っています。自分の思っている世界とか物を、すごいディテールまで考えて考えて考えることが妄想することだと思うんですけど、それを真剣にやると全員すごくクリエイティブなんじゃないかなと思います。誰でも妄想できると思うんですよね。それってピュアにその人のクリエイティビティだと思うんで、みんな真剣に妄想してみることが一番いいんじゃないかと思います。

【岡本】特に日本だと、大人になると「妄想」ってどっちかというとネガティブというか変な人というか。子どもだったらいいけど、いい大人が妄想ばっかりしてみたいな感じがあると思いますが、本当におっしゃる通りだなと思いました。制限をかけずに妄想をして描く、そこから何かが生まれるというか。

【福垣】本当にそれが、全員が持っているクリエイティビティだと思っているので、すごく好きな言葉ですね。英語にもDelusionという近い言葉があるんですけど、混乱状態のような少しネガティブな言葉なので、やっぱり日本的な文化で考える言葉の方がよかったりしますね。

実は英語でも「mo-so」って流行りそうな言葉だなと思っているので、この5年くらいかけて、世の中に発信してみようかなと思ってたりします。日本だけじゃなくて海外にも向けて。有名な日本語を。言いやすいですしね。

すごく妄想の強い人が周りには多いですね。いわゆる、一般的に見ると「変な人」が周りには多いですね。でもその「変なの」って何かというとやっぱりみんな妄想が強いというか、想像力が結構強い人たちなんで最高かなと思っています。それが「変な人」ってみんな言うんですけど、すごくいい意味で「変な人」って呼ばれてる人ばっかりなんで、一緒にいても楽しいですね。

個々のクリエイティビティは変わらない

【岡本】福垣さんの場合はアメリカ育ちで、日本とだいぶ学校の仕組みも違いますが、クリエイティビティに影響を感じますか?

【福垣】教育については、根本的なプロセスが違うと思っています。実際にクリエイティビティに関してはそんなに変わらないと思ってます。ただそのプロセスが違います。何でもディベートしていいっていうのがアメリカの考え方、教育なので。自分が違うと思ったものにははっきりと「違うんじゃないですか」って言えるっていうのが一番違うのかなって思っています。

そうすると、個々の持っているクリエイティビティを活かす場が増える。ただその個々が持っているクリエイティビティは変わらないかなと思っています。なのでその場をつくってあげると、いいモノはどちらでもできる。だからアメリカでもディスカッションできる場を持っていない会社やコミュニティでは何も起こらないですし、うまく行かないと思ってます。

【岡本】仕組みや機会を提供する方が大事だと。

【福垣】はい。だから二つの文化を理解して育った中で、そのギャップというのは見ていても正直そんなに大きくないんですよ。やっぱり人間同士なんでそんなに違わなくて。そのギャップは何だろう、「どっちがいいんだろう」って聞いても、どっちもそんなによくないっていう気がしていて。「こっちから見るとこっちがいい」みたいな感じには見えているんですけど、そのギャップを埋める新しいもの、考え方というのに凄く興味があります。

幸せは定義と道筋で変わる

【岡本】文化の違いやギャップのところで、それこそ何か新しい文化をつくりたいと思われていますか?

【福垣】そうですね。コペンハーゲンに住んでいた頃はデンマークが「世界で一番幸せな国」と世界で言われていたのですごく興味がありました。「何でここが世界で一番幸せなんだろう」と見に行ったんですけど、実際そんなに特別違っていたわけでもない。日本の方が全然文化としても濃いですし、食事も美味しいし安全だし、いろんな意味で日本の方が良かったと思います。

基本的に彼らは幸せという定義が少し違う。「世界レベルで物事を理解して、そこよりも今いいから、私たち幸せですよね」という見方ができる国であるということと、国自体が個々のクリエイティビティを尊重するような文化です。幸せでなくても幸せになれる道筋をいっぱい見せてもらえるというのが、あの国の良さなんだろうなって思いました。どう見ても日本の方がいろんな意味でいいので、少しその道筋が見えるようになるだけでも、日本は世界で一番いい国なんじゃないかなと僕は感じてます。

そういう道筋が見えている人からすると多分この日本からは一歩も出られないくらい幸せな場所だと思います。僕はそういったことを世の中、世界に発信していきたいと思っています。なので日本を変えるつもりもないですし、日本をよりよくする最後の仕組みづくりを一緒にやっていきたいと思ってます。

みんながクリエイティビティをゴールとした生き方をつくりたい

【岡本】大切にしている価値観とか、日頃意識されていることがあれば教えていただけますか。

【福垣】ほぼ毎日、朝起きると世界を良くしたいって思ってますね。朝起きて、仕事行く前に歩いてる時とか常に。毎日ですね。実はそれをパスワードにもしてます。自分の中のそういった思いをパスワードにしてるので、毎回ログインするたびに自分のゴールがそこにあります。

【岡本】それもいいですね。ちょっと考えたことがありませんでした。好きな言葉ならあるかもしれないですけど、想いをパスワード化するって。

【福垣】あまりシンプルすぎるとダメですけど(笑)そういった想いが毎日ゴールにあるといいなと思います。

【岡本】世界を良くしたいというのを、もう少し具体的に言うとどういう世界、世界観ですか?

【福垣】「みんながクリエイティビティをゴールとした生き方」です。

【岡本】クリエイティビティっていうのは、自分らしさを発揮するという意味ですか?

【福垣】そうですね。

「地球人」として「妄想」すること

【岡本】20代、30代でこれから起業したい人や、「妄想」にどちらかというとネガティブな印象がある人や、日本の素晴らしさがいまいち分からず苦しんでいる方など、そうした人向けにメッセージをお願いします。

【福垣】毎日妄想して、地球人としてゴールを持つことがいいんじゃないですかね。「日本人」ではなく、「地球人」として。そうすると今の縛りだったりというのもいろいろ見えてくるんじゃないかなと思うんです。

【岡本】「地球人として」っていうのは、人のためというような感じですか。

【福垣】そうですね。人間として何をするかというのがわかってくるのかな。まぁ妄想ですよね、本当に。言語も文化も超えた妄想ですよね。そうすると本当に自分の幸せも見えてくると思います。

【岡本】こういう考え方というのは自然に、小さい時からそうだったんですか。

【福垣】そうですね。結構子どもの頃よく遊んでたのが、地面に寝っ転がって「重力が反対だったらどういった生活をするか」とか、「空に落ちてったら怖いな」とか、もう妄想ですよね。子どもはみんなそういうことやってると思うんで。そういう妄想する時間をいっぱい持ってましたね。

【岡本】妄想は言い換えると「自由に発想する」っていうことだと。

【福垣】はい。そうですね。

【岡本】ニュアンスは全然違うと思うんですけど、妄想と自由に発想するっていうのは何が違うと思いますか。

【福垣】まぁ同じようなことなのかなぁと思ってますね。自由に発想するというと単発的に聞こえて、妄想って何度も何度も、深く深く、どんどん深くものを考えていくのが妄想かなぁと。発想というとその場で終わってしまうというのも含めていると思うので。どちらかというと、ずっと深く考えてみるのがいいのかなと思います。

【岡本】どういう人でいたいっていうと、世界をより良くしたい人でしょうか。憧れの人みたいな存在はありますか?

【福垣】実はいなくって。最近それで悩んでたりするんですけど。そういう人がいた方がいいんじゃないかと思いつつも、人生の中でそんなにというかずっといなくって。

【岡本】強い影響を受けた人とか。

【福垣】影響を受けている人はいますね。ただその人のようになりたいと思っていないというか。常にいろんなところから影響を受けて、独自の理念というか、そういうのを少しずつつくっているような気がします。

【岡本】デザインを学ばれるときは師匠はいました?

【福垣】いないですね。うちの大学というのは特にプロセスというか考え方を学ぶ場所であって、スタイルは教えないし、物のつくり方を教えてくれるけど、一番いいつくり方というのはこだわりを持たずに教えるという方針でした。

【岡本】そういうところから、自由でいられるってところもあるのかもしれないですね。

【福垣】そうですね、はい。

【岡本】少し長くなってしまいましたけど、これでインタビューは終わらせていただきます。ありがとうございました。

【福垣】ありがとうございました。

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