目の前の課題に立ち向かい続けることで強みを磨く
ミラティブCCO小川まさみの挑戦

37,677view
トップ > インタビュー 一覧

氏名 小川まさみ
肩書 株式会社ミラティブ CCO
フィーチャーフォン向けサービスやiPhoneアプリの制作ディレクターを経て、画面共有/ゲームプレイ配信用のスマートフォンアプリ『Mirrativ』のコミュニティマネージャーに。「インターネットを通じて人と人がつながること」の価値を信じて、人のぬくもりがあるサービス運営と企業の成長の両立を目指す。

中学生の頃に出会ったインターネット、そこで「人と人がつながること」に魅せられた小川さん。アプリの制作ディレクションや人気ゲームプレイ動画への出演などのユニークなキャリアを経て、現在はDeNAからスピンアウトした株式会社ミラティブでCCO(チーフ・コミュニティ・オフィサー)を務める彼女に仕事にかける思いを聞きました。


  » 株式会社ミラティブ

文学少女、インターネットに出会う

—【聞き手:楯雅平、以下:楯】どうも。今回は、前職の同僚だった小川さんへのインタビューということで、いつもと勝手がちがいますが(笑)、よろしくお願いします。

【話し手:小川 まさみ(敬称略)、以下:小川】そうですね(笑)、よろしくお願いします。

—【楯】私たちは『ザ・キーパーソン』というインタビューメディアで、ビジネスやアートなどの世界で活躍されている人たちにお話を聞いて記事を書いています。キャリアや実績のハイライトだけでなく、生い立ちからじっくり人となりに迫るスタイルが特徴なので、まずは子供時代の小川さんについて教えてください。

—【小川】わかりました。私は、生まれは都内ですが育ったのは埼玉県です。運動が苦手なインドア派でしたね。学校のお昼休み、他の子たちが校庭で遊んでいる時に、私は教室で本を読んでいました。好きなジャンルは母親の影響で読み始めた推理小説。あと、『ソフィーの世界』からは強い影響を受けました。体育の授業は「無くなればいいのに」と思っていました(笑)。

性格は生意気で、人と比べられるのが嫌い、テストの点数をいちいち聞きにくるクラスの男子とかを心底「うっとおしい」と思っていましたね。学級委員をしていて成績もそこそこ良かったので、先生からは好かれるタイプだったと思います。

3つの居場所

—【楯】青春時代の経験で、今の生き方に影響を与えたことはありますか?

—【小川】当時を振り返ると自分が3つのコミュニティに属していたのだと思います。異なるコミュニティに自分の居場所があったという経験が、今の自分に影響を与えている、というのはありますね。

1つめのコミュニティは、もちろん学校です。2つめは、インターネット。3つめは、地元の駅周辺のストリートで歌を歌っていた時に出会った人たちです。通っていた学校は普通の女子校でしたが、それ以外の環境では、学校だけでは会えない年齢や職業の人たちと話す機会に恵まれていました。だから、同年代だけのコミュニティにいる人たちより大人と話すことに抵抗がなかったと思います。

ちなみに、路上で歌っていたことは高校の先生に見つかって「受験生なのだから、ダメですよ」と言われて、辞めさせられました。勉強は真面目にしていたので、大学では数学の道に進みました。当時は教員という仕事に魅力を感じていて、中学校で数学や道徳を教えられたらいいなと思っていました。

道徳を教えたいなんていうと、自分は「正しい」ことがわかるって言っているように聞こえるかもしれないんですが、そういう意味ではなくて誰もが自分で納得する道を選べるようになるためにはどうするべきか?ということを一緒に考えたり、伝えたりしたかったのです。なので、当時はそのつもりで教育実習を受けて教員免許もとっていました。

でも、大学3年生の頃に「私はこのまま教員になっていいのかな?」と思い始めました。学生と教員という世界しか知らなくていいのか?と、疑問をもったのです。教える生徒たちのほとんどは社会にでるのですから。そんな思いもあって、インターンとして株式会社寺島情報企画で働きはじめました。デコメや占いなどのフィーチャーフォン向けサービスの開発をしていた会社です。

とても優秀な人が多い環境で「この会社で働くのは楽しい」と思い、そのまま就職しました。当時の自分をひと言で表わすならとにかくがむしゃら。必死で働いて、常に目の前のことに一生懸命、という感じでした。そうやって働いている時に『iPhone 3G』が日本にやってきて「このままケータイ向けの月額課金サービスだけをつくっていたら先は無い」と直感し、iPhone用のデコメアプリを作ることを志願しました。これがアプリ制作のディレクターをすることになった最初のきっかけです。

小川さん、10問10答

—【楯】さて、ここで少し雰囲気を変えて「10問10答インタビュー」をさせてください。私が質問を投げますので、考えずに、正直に、スグに、答えてくださいね。答えやすい質問の中に、ちょっとだけ答えづらい質問が混ざってるかもしれませんよ(笑)。

Q. コーヒ派ですか? 紅茶派ですか?

A.えっ? 紅茶派です。

Q. 現実派? 夢見がち?

A.現実派(真顔)。

Q. パン派ですか? ライス派ですか?

A.パンかな。

Q. 最近、一番うれしかったことは?

A.『Mirrativ』で配信をしているユーザーさんへのインタビューのときに「いつも見ている人が入院する。それでもいつも通り配信して欲しい、と言われて泣いてしまいました」というエピソードを聞いたことです。人と人がつながって誰かのために涙を流せる関係がミラティブの中に生まれていたということが、とてもうれしかったです。

Q. テレビ派ですか、本派ですか?

A.いや、もう本です。

Q. 時間が欲しいですか? お金が欲しいですか?

A.時間!

Q. 好きな食べものは最初に食べる? 最後に食べる?

A.最後……かな。

Q. やめたいけど、やめられないクセは?

A.思い当たりません(笑)

Q. 頭脳派ですか? 肉体派ですか?

A.頭脳なのかな、いや、わかんない(笑)

Q. 自分のことは好き? 嫌い?

A.好きになりました!

—【楯】「10問10答インタビュー」は以上です。

—【小川】いやー、こういうのイヤなんですけど(笑)。

今だから言える「スプリングまお」のホンネ

—【楯】アプリの制作ディレクターとして経験を積んだ後に転職したのが、iPhoneアプリを紹介するメディアのAppBankですね?

—【小川】はい。当時のAppBankは鎌倉のマンションの一室にあったスタートアップ企業で、創業者の宮下さんや村井さんたちがごく少人数で記事を書いていたという会社でした。そんな中「女性ライター」を募集するというタイミングで宮下さんが私に声をかけてくれました。私自身は「ライティングを仕事にするイメージは湧かないなぁ」と思っていたのですが、宮下さんから「将来、僕らがユーザーに使って欲しいと思うiPhoneアプリをつくれる人がこの会社にはいない。だから、そういう仕事をする人になって欲しい」と言われて、入社を決めました。当時、AppBankの記事はたくさんのiPhoneユーザーに読まれていたので、ここでアプリをつくれば多くの人に使ってもらえるチャンスだと思い、その可能性に賭けました。

入社前から「spring_mao」という名前(ハンドルネーム)で個人のブログやSNSを書いていたこともあって、AppBankでもその名前でライターとして記事を書き、アプリ制作が本格化した後は主にディレクターを担当して、最終的にはapprimeという子会社の代表を任せていただきました。当時はいろいろな社外のクリエイターさんと働けるのが楽しかったですね。あとは、ゲームの攻略アプリとメディアをつくる中で、ハードコアなゲーマーではなかった私に関わってサポートしてくれた人たちにはものすごく感謝しています。

—【楯】AppBankの「スプリングまお」と言えば『パズドラ(パズル&ドラゴンズ)』などのゲームプレイ動画の出演者として記憶している人も多いと思いますが、その経験についてはどう感じていますか?

必死でした(笑)。自分はスーパープレイヤーでもなんでもないのに、100万人とかの視聴者さんが居る前でプレイするという中で学んだのは「自分の立ち位置を客観的に見ること」ですね。この番組を「視聴している人たちが楽しめる形で成立させる」には、自分がどう動くべきなのか?と常に考える、そういうクセというか目線が身につきました。周りの出演者のことを考えて「きっとこの人たちはこう考えて、こう動く。その中で、自分の立ち回りはこうあるべきだろう」ということを頭をフル回転させながら考えて、行動していました。

これはカメラの前だけではなくても、仕事においても同じです。現場はこう動く、経営メンバーはこう考える、そういうことを想定しながらアクションをする。自分が当事者でありながら、第三者目線を持って業務を遂行するということを学んだと思います。

ミラティブで目指すもの

—【楯】さて、ここからはミラティブの小川さんについて教えてください。まずは、このサービスについて、読者の皆さんへ向けたかんたんな説明をお願いします。

『Mirrativ』はスマートフォン1台でゲームの生配信ができるプラットフォームです。友だちの家に遊びに行って、一緒にゲームを遊んでいるような、そんな感覚で使えるアプリです。スーパープレイやパフォーマンスを魅せるための場ではなく、居場所や遊び場という感じです。ゲーム配信を軸にしたコミュニケーションプラットフォームといってもいいですね。

現在は約700万ユーザーさんが居て、配信経験者数は100万人を超えます。これは、日本のスマートフォンゲーム実況プラットフォームの中では圧倒的です。見るだけでなく、配信もする人の割合いが高いというのが『Mirrativ』の大きな特徴です。

—【楯】 そのミラティブに転職された思いはどのようなものなのでしょうか?

—【小川】いろんなアプリをつくる経験をした後で、もう一度自分の役割を考え直した時、中学生や高校生の時に体験した「インターネットを通じて人と人がつながる」ことの素晴らしさというのが自分の中で重要な位置を占めていることを再確認しました。それにフィットするのが「ミラティブ」だったということですね。人と人をつなぐサービスをユーザーさんと一緒に伸ばしていく、という仕事が自分の思いややってきたことにはまるという感覚です。

—【楯】小川さんは「CCO(チーフ・コミュニティ・オフィサー)」というポジションで働かれているそうですが、それはどのような役割、立場になるのでしょうか?

—【小川】私は赤川(CEO)や開発チームと一緒に長くサービスを育ててきたので「Mirrativならではの企画とは?」という視点を持つことができます。逆に、Mirrativは「こうは表現しない」というのもわかります。そうやってMirrativらしさを徹底し、アウトプットに責任をもつのが1つの役割です。もう1つは、インプットとしてユーザーさんの声を経営陣が議論する場に届ける、という役割もあります。グループインタビューをしたり、オフ会を実施し直接ユーザーさんにお会いしてみなさんの声に向きあうこと、あるいはそれをマネジメントする役割も担っています。

—【楯】御社は2019年2月にJAFCO、グローバル・ブレイン、YJキャピタルなどから35億円の資金調達をされました。この先2~3年で言うと、どのような展開を目指していますか?

—【小川】ユーザーさんに、圧倒的に支持された状態を維持しつつ、企業として成長することを目指しています。『Mirrativ』では、サービスに障害がおきて、利用に支障がでてしまっているときでも、ユーザーさんから「運営がんばれ」とあたたかい励ましの言葉をいただけることがあります。サービスの「中の人」を感じてもらえるコミュニケーションができているから、こういうことが起きると思っています。人のぬくもりを保ったまま、成長できるか? これが『Mirrativ』の挑戦です。

実は、ゲームというのは「一人よりも、友達とプレイしているほうが長く継続して楽しめる」というデータがあって、この情報はゲーム会社のマーケターさんにも浸透しつつあります。これは必ずしも「リアルな場所で一緒にプレイする」だけでなく、『Mirrativ』のように「オンラインで一緒にプレイする」も含まれます。なので、『ミラティブ』を通じて「ゲームを一緒に楽しむ」人が増えれば、ユーザーさん、ゲーム会社さん、そして私たちが「Win-Win-Win」になる関係が築けると信じています。

スタートアップで働く女性として

—【楯】女性ということにフォーカスした質問をするのもどうかなとは思ったのですが……スタートアップ界隈は「男社会」という現実があります。だから、あえて聞きますが、複数のスタートアップ企業の要職を女性として経験して何か思うことはありますか?

—【小川】そりゃ、いろいろありますよ(笑)。(少し考えて)……私は「男と女はちがうから意味がある」と思っています。権利や義務がちがうという意味ではなく、キャラクターや考え方の傾向がちがう、という意味ですよ。なので「私は女性だからこう思う」という言い方も、ありなのかなと最近は思えるようになりました。

大学のころにサークルで「小川さんは“女の子だから”これをやって」と言われて、イラッとした思い出があります。女性だからこれ、女性だからこう、というニュアンスを嫌だと感じることはまだあります。ただ、女性だからわかることも確かにあるのだろうなとも思います。だから、「女性はこう」という見方を、堂々と自分の武器として立ち位置のひとつにしてしまうのも手ですよね。

—【楯】最後に、私たち『ザ・キーパーソン』の読者、会社やコミュニティにポジティブなインパクトを与えられる存在「キーパーソン」を目指す人たちに向けて、何かアドバイスやコメントがあればお願いします。

—【小川】私はえらそうにアドバイスできる立場でもないですが……いろいろな場所で試行錯誤をしてきた人間として伝えたいのは「いきなり最初から自分の強みがわかってる人はいない」ということです。目の前の課題に対して立ち向かっていく中で学び、自分の強みがドンドン明確になっていくのだと思います。求められることに全力で応えていく中で自分のできることが増えて、好きなことやりたいことに気づくということも多いです。そういった意味では、人に求められる人間になることが強みを見つけるひとつの道なのだと思います。

今回のインタビューの「10問10答」の「自分を嫌いだったけど、好きになれた」という答えにつながるのですが、私はそうやって自分を肯定できるようになりました。「自分の強みはなんだろう」「やりたいことがわからない」と悩んでいる人は、まず「人に求められる人になる」ことを目指すとよいと思いますよ。

—【楯】今日はたくさんお話しをいただき、ありがとうございました。

—【小川】ありがとうございました。

Company
企業 株式会社ミラティブ
所在 東京都渋谷区



株式会社ミラティブにアクションする