『Nontitle』で見せた覚醒。挑戦を続ける起業家・藤巻滉平が語る成功の秘訣は「問いを変え、行動すること」

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氏名 藤巻滉平
肩書 株式会社cadre 代表取締役
1993年神奈川県生まれ。大学在学中に起業し、経営と並行して、受託開発と投資事業を行う会社に入社。投資先を含む、ベンチャーから大企業まで様々な新規事業開発に従事。複数の事業売却経験を経て、Youtuberのヒカルと格闘家の朝倉未来が主催する、YouTubeで延べ1000万回再生された起業家育成リアリティショー『ノンタイトル』から生まれた企画として株式会社cadreを創業。家電D2C事業を展開。第一弾のプロダクトとしてドライヤーをリリースし、初日で売上1億円を突破。

『Nontitle~この1000万円あなたならどう使う?』は、Youtuberのヒカル氏、格闘家の朝倉未来氏がアンバサダーを務める起業ドキュメンタリーである。オーディションによって選ばれた男女が2つのチームに別れ、3ヶ月間で事業を創り出すといった画期的な企画がSNSを中心に話題を呼んだ。

多くの視聴者が見守る中、最終的に事業化が決定したのは、D2C家電ブランド・cadre(カドレ)。

今回は、同事業の代表取締役である藤巻滉平氏を招き、同氏がcadreにかける思い、人生の夢、目標について伺った。

学ぶことが好きだった学生時代。大学受験での失敗をはねのけ起業

—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】自己紹介をお願いします。

—【話し手:藤巻氏、以下:藤巻】藤巻 滉平です。Webサービスやアプリの受託開発を行っているAmbee、シーシャラウンジの運営をしているSWAY、シーシャ機材やフレーバーの開発を行っているESTARK、家電事業を主体とするcadre、計4つの会社の代表をしています。

もともと大学生の時に起業していて、家庭教師と学生のマッチングサービスをメインとした事業を手がけていました。大学卒業後はエンジニアとして別の会社に入社し、しばらくは並行する形で経営を続けていたのですが、最初に起業した会社は事業売却しています。現在経営している3社は、新卒で入社した会社を退職した後に立ち上げたものですね。

—【松嶋】新卒で入社した会社では、どのようなことをされていたのですか?

—【藤巻】受託開発と投資を行っている会社で、私はエンジニアリングや事業の立ち上げ支援を担当していました。

エンジニアとしては、UI/UXの設計や要件定義、インフラ、バックエンドまで、フルスタックにカバー。そのほか、プロジェクトマネージャー的な役割をすることもありましたし、投資先の社長と伴走しながら事業を創り、エンジニア採用のサポートをしたこともあります。

—【松嶋】現在ある会社の中で1番最初に立ち上げたのはどれなのでしょう?

—【藤巻】Ambeeです。2019年に会社を退職し、2020年に創業しました。

Ambeeでは新規事業の相談が多いですね。大企業の新規事業でエンジニア部隊が不足しているところのお手伝いをしています。エンジニアやデザイナーは全員業務委託で、20名ほどの方にご協力いただいていますね。

—【松嶋】SWAYとESTARKは、エンジニアとは全く関係のない会社ですね。これらを立ち上げた理由はなんだったのでしょうか。

—【藤巻】もともと人と関わることが好きで、リアルビジネスをやりたいと考えていました。通っていたシーシャカフェのスタッフや店長から辞めようと思っていると聞いて、「それなら一緒にお店を作ろう」と誘い、2021年にSWAYを立ち上げました。

ESTARKはかつての経営陣から「経営よりもフレーバーの開発に専念したい」と相談を受けたため、SWAYで株式を一部買い取った形ですね。会社としてスタートしたのは、2021年の秋頃です。

—【松嶋】なるほど。そもそも起業しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

—【藤巻】最初に起業したいと思ったのは、高校生くらいの時ですね。父親が会社をやっていたこともあり、ぼんやりとではありますが、当時から自分も経営者になりたいと思っていました。

—【松嶋】起業に至った背景には、家族の影響もあったのですね。小さい頃はどんな子どもだったのですか?

—【藤巻】幼稚園の年長になるまで、両親が共働きだったため保育園に通っていて、幼い頃から大人に囲まれる環境には慣れていました。当時の話を両親に聞くと、好奇心旺盛な子どもだったそうです。親以外の人と過ごす時間も長く、同級生はもちろん大人とも仲良くできるタイプでしたね。

小さい頃から勉強は得意で、幼稚園の年長で四則演算はできていたと聞いています。自分から両親にお願いして、8歳の頃から小学校を卒業するくらいまで塾にも通っていました。昔から新しいことを学ぶのが好きだったのでしょうね。

スポーツも好きで、幼稚園ではサッカー、小学校低学年〜高学年までは野球をしていました。

—【松嶋】『Nontitle~この1000万円あなたならどう使う?』(以下:『Nontitle』)のなかで、中高一貫の男子校に通っていたとお話しされていましたね。

—【藤巻】ええ。進学校だったものの、中学3年生くらいまでは勉強に力を入れていたわけではなく、友人とスポーツやゲームをするなど、遊んでいたことの方が多かったです。

高校では勉強も頑張っていたのですが、受験直前に熱が出てしまい、希望の大学に受かることはできませんでした。当時の担任からは浪人することを勧められましたが、進学を優先したかったため、別の大学に入学しました。

大学では経営を学んでいて、最初は自分の知らない世界を見れるのではないかといった淡い期待もありましたが、実際はそんなこともなく。とはいえ周囲の友人には恵まれていて、学外で学生団体をつくったタイミングから、起業を志す学生や経営者との繋がりが増えていきました。その学生団体のメンバーと一緒に立ち上げたのが最初の会社です。アルバイトとして塾講師をしていた経験から、家庭教師と学生のマッチングサービスを思いつきました。

「負けたかも」と思った。『Nontitle』の3ヶ月間で家電ブランドの事業化を実現

—【松嶋】会社を3つ経営して、事業も順調だったと思います。『Nontitle』に応募したきっかけは何だったのですか?

—【藤巻】ビジネスをする中で一番重要かつ大変なのは、認知と集客です。それらを強化するためには、インフルエンス力が必要だと理解はしていたものの、自分自身が表に出るのは得意ではありませんでした。とはいえ、自分にある程度のプレゼンスがなければ、YouTuberやインフルエンサーと仕事をするのは難しいでしょう。できたとしても、対等な立場では仕事を進められません。私自身に一定の認知度をつけなくてはいけないなと思っていた時に、『Nontitle』のことを知りました。

私自身、いつかビジネスリアリティショーをやりたいと思っていたこともあり、応募することにしたのです。

—【松嶋】番組がスタートした当初、不安な気持ちはありましたか?

—【藤巻】合格してから番組が始まるまで1〜2ヶ月ほど空いていたこともあり、「いよいよ始まるのか」といった期待が9割ではありました。「初対面のメンバーと3ヶ月で事業が作れるのか?」という不安があったのも事実です。

最初は6人からスタートして、メンバーの過半数は起業経験がありませんでした。私は起業経験がある人間としてアサインされたと思っていて、自分が事業をリードしていくべきなのか、サポートに徹するべきなのか、最初は手探りでしたね。

—【松嶋】1話でグループ分けされた際、藤巻さんはビジネス経験の少ない2人と同じチームでしたね。

—【藤巻】ええ。最初は特に不安を感じていたわけでもなく、事業はつくれそうだなと思っていました。番組の特性上、Webサービスやアプリ事業にするのではなく、モノをつくった方がいいでしょうし、私が主体となって事業をつくるよりも、ほかのメンバーをメインに進める方がいいだろうとも思っていましたね。

そのため最初は女性メンバーを立てて事業を進めていたのですが、途中でそのメンバーが相手チームに移動することとなり、どうしたらいいのかわからなくなった時もありましたね。

—【松嶋】番組の途中でメンバーシャッフルがありましたよね。チームメンバーが変わった後、何か変化はありましたか?

—【藤巻】メンバー変更後に起業経験のある木下が入ってくれて、事業は進めやすくなりました。チームの雰囲気がガラッと変わりましたし、最終的にはバランスも良かったのではないかと思います。

—【松嶋】視聴者としては、番組の後半でピボットをした後から、藤巻さんの本領が発揮されていたように思います。

—【藤巻】ライバルチームがピボットすると聞いて、当初の事業のままでは100%負けてしまうと感じました。勝つためには事業を変えなければいけないと強く思いましたね。ただ、家電事業をするとなると、難易度はグッと上がってしまう。製品をつくるまでに必要な資金も増えます。

時間も資金にも余裕がない中ではありましたが、メンバーの渡辺、木下がいたからこそ、事業化できたと思っています。

—【松嶋】採択された瞬間は、どのような気持ちでしたか?

—【藤巻】「あ、勝ったんだ」と驚きました。正直にお話しすると、ライバルチームの腸活スープはヒカルさんや未来さんと相性がいいと思いましたし、短期的に売上がついてくるイメージもありました。発表を聞くまで、負けたかもしれないという不安もありましたね。

時間が経つごとに「本当に事業が始まるんだ」と実感が湧いてきました。

—【松嶋】勝った要因は何だったのでしょうか。

—【藤巻】長期的な目線を持っていて、それに対する事業のインパクトがしっかりあったからではないでしょうか。

結果論ではありますが、「cadre hair dryer」の売上は初日で1億円を突破しました。家電はできる範囲も広いですし、誰かとコラボすることもできる。そういった点も含めて、ヒカルさんと未来さんはcadreを選んでくださったのかなと思っています。

目標はApple? D2C家電ブランドcadreで、業界の構造を変えていく

—【松嶋】cadreはどのような体制で動いているのでしょうか?

—【藤巻】代表取締役の私がいて、木下と渡辺は役員として経営に関わっています。そのほかの人員はこれから増やしていく予定ですね。

—【松嶋】「cadre hair dryer」の販売もスタートしていて、会社として動き出したばかりのフェーズだと思います。今の気持ちをお聞かせいただけますか。

—【藤巻】やっと落ち着いてきたと言いますか、慣れてきたというのが本音です。“初めましての人たち”と3〜4ヶ月で事業をつくるのは、面白さがあると同時に困難なこともありました。

非常に特殊な環境から生まれた事業ではありますが、「いい家電をつくりたい」「いい社会をつくりたい」といった思いは、3人とも同じです。短い期間の中で、価値観の擦り合わせができたのはすごいことだと思いますし、cadreを大きくするために、力を合わせて頑張っていきたいと考えています。

—【松嶋】cadreが目指すものについてもお話しいただきたいです。

—【藤巻】家電業界の常識を覆したいですね。

家電は単品通販のスキームになりがちで、新商品をつくり続けない限り、売上が途絶えてしまいます。そういったビジネスモデルだからこそ、素人にはわからないほど軽微なバージョンアップやデザインを変えただけのような新商品が続々と生まれてしまっているのです。

消費者からすると選択肢が多すぎて選ぶのが大変ですし、そもそも最近の家電は多機能すぎる。全ての機能を使っているのは、ごく一部の家電好きの方だけではないでしょうか。

また、家電メーカーは次から次に商品を出さなくてはいけないため、販促費も嵩みますし、売れ残った家電の保管及び破棄にもコストが発生しています。それらは新商品の料金にも含まれているため、無駄なコストを消費者が支払っているのです。

そういった課題を解決するためにも、cadreは1領域・1プロダクトのみで製造及び販売する予定です。要は、決定版の家電のみを販売するスタイルですね。それにより無駄なコストは発生せず、消費者が商品を選択する際のストレス減少にも繋がると考えています。

—【松嶋】消費者からすると、必要な機能を備えた高品質な家電を安価に手に入れられると。

—【藤巻】ええ。とはいえ事業を続けるためには商品をつくり続ける必要があります。そのため、「cadre hair dryer」では、ヘアオイルなど、ヘアケアグッズも販売しようと考えています。

家電の関連商品はサブスクリプションにするのもいいと考えていて、単品通販と継続的な通販のスキームをつくる予定です。

—【松嶋】ハードをつくったあとにソフトをつくる。まさにAppleのようなスタイルを目指していかれるのですね。

—【藤巻】ソフトから入ってハードをつくるパターンは珍しくありませんが、その逆は莫大なコストが必要なため、実現するのは難しいですよね。『Nontitle』は初期投資も用意されていますし、認知のコストも少なく抑えられます。cadreは番組の利点を活かした事業だと自負しています。

—【松嶋】ブランドの信用は数年かけて構築されるものであり、新規家電事業はそういった点が弱い。しかし、cadreの場合は“信用スコア”がある状態で事業を始められるのも大きいのではないでしょうか。

—【藤巻】おっしゃる通りです。とはいえ、年数をかけていない分、崩れやすいものだとは思っています。良くも悪くも最初から注目していただいていますし、いい商品をつくらなければ、大きな反動がくるでしょう。

長く事業を続けるためには初期フェーズが非常に重要ですし、妥協することなくいい商品を作っていきます。

将来的には教育領域にもトライ。藤巻滉平が目指す未来とは

—【松嶋】cadreを大きくしていくのはもちろんですが、そのほかに将来の夢や目標があればお話しいただきたいです。

—【藤巻】将来的には教育領域で何かしたいですね。そう思っている背景には、大学受験に失敗した経験が大きく影響しています。

私の場合、大学受験に失敗したとはいえ、周りの人に恵まれてやってこれました。起業についてもよくわからないままスタートしたものの、これまで大きな失敗はありません。自分の体験を一つひとつ分解していくと、成功するためのエコシステムが作れるのではないかと考えています。

また、大学生の時に塾講師のアルバイトをしていて、中学3年生のクラスを受け持っていました。要は、受験勉強真っ只中の重要な学年です。20人弱ほどの生徒がいて、一人ひとりが成長する過程を見ているのは、非常に面白かったですね。

—【松嶋】それは素晴らしい経験ですね。やりがいもあったのではないですか。

—【藤巻】ええ。印象的なエピソードとして、夏にあった勉強合宿で、200人ほどの生徒を相手に4泊5日で授業をしたこともあります。日中ずっと勉強しているのに、隙間時間に質問しにくる生徒もいて。最初はやる気がなさそうに見えた子も、周囲の生徒や講師陣の熱意に影響され、顔つきが変わっていくんですよ。最終日には号泣しながら「ありがとうございました」「会えてよかったです」と言ってくれて。

生徒の合格通知書を見たときは、嬉しかったですね。あの体験は、私の中で非常に大きな思い出です。人に教えることで自分も学ぶことが多いですし、人が成長する過程に携わるのは、素晴らしいことですよね。

現在は教育領域での事業をするために資金をつくったり、さまざまな人とあって知見を蓄えたりしているところでもあります。50歳くらいから残りの半生は、教育領域の事業をやりたいと考えています。

—【松嶋】藤巻さんのこれからに要注目ですね。最後に読者へ向けてメッセージをいただけますか。

—【藤巻】私は「思考を止めない」ことが大切だと思っています。周りで悩んでいる人の話を聞くと、同じところをグルグル回っていることが多いように感じます。

解決できないときは、解こうとしている問題の設定が間違っているか、問題が大きすぎるかのどちらかが原因なのではないでしょうか。私が問題に直面した時は、目指したいところと現状の差を見極めて、解決できるサイズに因数分解していくようにしています。「今これって何をしたいんだっけ?」「これってどっちの選択肢を取るべきだっけ?」と分解していくと、比較検討の軸が判明します。それを繰り返すことで、大体の問題は解決できる。

悩んでばかりで行動しないまま終わってしまったら、きっと後悔しか残らないと思うんです。よく考えてみると、行動することによって得るメリットより、デメリットの方が圧倒的に少ないはず。しかし、行動せず口だけで終わる人も珍しくありませんよね。

やりたいことがあるのであれば、やった方が絶対楽しいと思います。「お金がない」「時間がない」という方もいらっしゃるかもしれませんが、スモールスタートでもいいじゃないですか。行動に移せない原因は、自分と向き合えていないからなのではないかと思います。もしくは、本当にしたいことではないのかもしれませんね。

迷っているのであれば、「本当にやりたいのは何なのか?」「これでいいのか?」と、自分の中の問いを変えてみるのがおすすめです。


【撮影協力(場所提供)】株式会社リベロエンジニア


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企業 株式会社cadre
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