海外経験を日本で活かすキャリア形成、
PRプランナー上村由依が語るその実例

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氏名 上村由依
肩書 itty selection Inc.
代表取締役 CEO
略歴 22歳で東京からニューヨークへ。NY在住中と帰国後のトータル3年半を、フリーランスのPRプランナー・PRライター「かみむらゆい」として活動。50社以上のPRプランニングやPRライティングに携わり、2016年、29歳で株式会社を設立。(itty selection Inc. 公式ウェブサイトより)

「悩むのが好き。悩んだ人・考えた人ほど、最高の場所にたどり着けるのだと思うんですよ」と言う上村由依さん。ニューヨーク帰りの敏腕PRプランナーと聞けば「エリートコースを歩んできたキャリアウーマン」を想像しがちですが、実際の彼女は迷い、悩み、考え、時に遠回りをしながらも自分の道を切り拓いてきた起業家です。今回のインタビューでは、そんな彼女のユニークなキャリアのつくり方について、お話をうかがいました。

—【聞き手:楯雅平、以下:楯】はじめまして、よろしくお願いいたします。

【話し手:上村由依(かみむらゆい、敬称略)、以下:上村】はい、よろしくお願いします。

海外とは縁のなかった子ども時代

—【楯】生い立ちや、起業に至るまでの経緯などを教えてください。もともと、アメリカや英語圏にご縁があったのでしょうか?

—【上村】出身は奈良県で、中学までそこで暮らしていました。なので、どちらかと言うと、海外との関係は薄かったです。奈良には海すらありませんからね(笑)。だからこそ、広い世界への憧れは強かったですが、「アメリカ留学を目指して猛勉強!」みたいな子供ではありませんでした。

高校は大阪で通って、大学生になって東京へ出てきました。ですが、大学の友人といると勉強よりも遊びがメインになってしまうことも少なくなかったので、「遊ぶために東京に来たわけじゃない……このままで良いのだろうか?」という焦りがありました。そこで、思い切って大学を中退して、日本各地に130くらいの店舗を持つ大きなアパレル企業で働き始めました。これが2007年のことです。

私が配属されたのは池袋店で、そこでの個人売り上げはずっと1位でした。トップセールスだったので、新入社員としてはいろいろやらせていただけた方だとは思いますが、やはり年功序列の壁というものにぶつかりました。それで、広い世界、そして本当の意味での実力主義の世界に行きたいと強く思うようになりました。

そんな環境で悩みながら店舗に立っていると、海外から来たお客様とお話しする機会があって「英語と海外経験をベースにして、ファッションの世界に通用する専門スキルを身に着けたい」と思い、具体的な目標として海外留学を目指すようになりました。

単身アメリカに渡る

—【楯】なるほど、そのような流れで渡米されたのですね。アメリカでは最初「New York Language Center」で勉強されていたそうですが、当時のご経験やエピソードがあればお聞かせください。

—【上村】ファッションの勉強をするためには、専門的な英語のスキルも必要なのでしっかり英語を勉強しようと決めて言語学校に通っていました。ですが、英語がペラペラな状態で渡米したわけではないこともあって、コミュニケーションではなかなか苦労しましたよ。ニューヨーク英語特有の「前後の単語がつながった」感じでしゃべる独特の英語が聞き取りにくかったり、道を聞いてもテキトーにしか答えてもらえなかったりして、戸惑ったことを覚えています。ホームステイ先のおばあちゃんともソリがあわず、それもツラかったですね。

—【楯】ファッションのPR会社でアシスタントの仕事をされていたそうですが、どのような流れでそうなったのですか?

—【上村】現地の生活に慣れてからは、学校だけでなくもっと実践的な場所で経験を積もうと思うようになりました。そこで、日本の大手企業が主催するニューヨーク在住の日本人学生向けセミナーに参加したところ、そこにゲスト講師として登壇されていたのが当時ADKアメリカ法人のCFO兼副社長だった榮枝洋文(さかえだ ひろふみ)さんでした。

その頃の私は「広告代理店」も「ADK」も知らなかったのですが(笑)、一番前の席に座って「ふんふん、なるほど」とお話を聞いていました。「本当に就活がしたいの?みんなはニューヨークにまで来たのだから、周りと同じように就活をはじめなくてもいい。本当に自分がやりたいことを、自分で見つけてください」という榮枝さんはカッコよかったですし、他にもたくさん気付きを得ることができました。

講演が終わったあとに彼の所へ駆け寄って「ファッションの専門スキルを身につけるために日本からニューヨークに来ました。それから、私の友だちにはアーティストとかクリエイターがいます。でも、それをビジネスにするのはむずかしい。私は売るのが得意で、彼女たちの支援もしたいんです」という話をしたら、「PRの仕事をしたら良いよ」とアドバイスをいただきました。

それで「この人が言うなら、まちがいないやろ!」と思って、その道に進むことにしました(笑)。その後、すぐに募集しているかどうかは関係なく、PRの仕事に携われそうな会社にどんどんコンタクトをとっていきました。その中で、返事がもらえたのがニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちのアーティストのプロモーションをしている日本人女性でした。そこでアシスタントとして働くことになって、ポップアップストアを開いたりデザイナーのインスタレーションをしたりしました。

また、日本人向けの情報誌を発行している会社の経営者さんから「うちの媒体でライターをしてみる?」とお誘いいただき、取材などを担当することもありました。この時は、ニューヨークに新しくできたお店や映画の試写会へ行って、記事を書いていました。ちなみに、今の私は「クライアント企業を取材してもらうために、プレスリリースを出す」という立場で仕事をしていますが、かつて自分が取材をしていたことで「メディア目線」を持てるのが強みになっていると思います。

あとは、日系の留学エージェントでのインターンもしていました。日本から毎週10人ほどの学生や社会人が渡米して来るので、空港に迎えに行ってホームステイ先までご案内したり、カウンセリングをはじめ、銀行開設や携帯電話の契約のお手伝いをしたりしていましたね。

ニューヨークでの経験をもとに日本で起業

—【楯】バラエティに富んだご経験ですね。帰国後はどのような活動をされていたのでしょうか?

日本に戻ってきたのが2012年で、当時はニューヨークを拠点としたファッションブランドのPRをお手伝いしていました。その後も、ご縁のあった榮枝さんに相談する機会があり、ずっと「社長になりたいんです」と伝えていたこともあり「小さい企業で社長の近くに居られる仕事をしなさい。そうすれば、社長の働きかたを間近で見て学べます」というアドバイスをいただきました。それで、女性が社長をされている30人くらいの会社をご紹介いただいて、2年間ほど働きました。「誰が、どう動いて、売上ができていくのか?」を現場で知れたことが起業に役立っていると感じています。

その後、2014年にフリーランスとして独立し、2016年9月に自分が代表を務めるitty selection Inc.(アイティセレクション)を設立しました。



“itty selectionは、PR/キャリア/海外の3つの軸によって、企業や人びとの「セレクト」=「価値のある選択」をサポートする会社です。東京・ニューヨーク・ハワイの日系企業やブランドのPR、PRパーソンやフリーランスの育成、NY&ハワイとつながるサービスなどを手がけています”



» itty selection Inc.



—【楯】itty selection inc. について、もう少し詳しく教えてください。

—【上村】弊社はPRのお手伝いをする会社です。東京のファッションブランドやIT企業、ニューヨークまたはハワイの日系企業などがお客様です。一例として、アメリカの企業でいえば、ツアー会社や宿泊施設など「日本から来るお客さんに特別な体験をして欲しい」という想いを持っている経営者が多くいらっしゃいます。私たちはこういった皆さんが日本に向けてPRや情報発信をするサポートをしています。

少し前まで企業PRは「とにかくマスメディアに掲載されることを目指そう」みたいな風潮でしたが、それは、お客様に情報を届ける手段がマスメディアしかなかったからなのです。インターネットが普及して多くの人がウェブ検索やソーシャルメディアを活用している時代においては、それだけでは十分ではありません。

いろいろなチャネルを活用して「会社やブランドのファンをどうやって増やすか?」ということを考えていかなければ、モノやサービスが売れづらくなっています。そういった全体像の中で、今、何をすべきかを考えなければなりません。さらに細部の施策としてどうやってプレスリリースを書くか? オウンドメディアやSNSはどう活用するか? イベントはどうやったらいいのか?といった課題の解決を通して、それぞれの企業にあわせて最適なPRをするお手伝いをしています。

また、それとあわせて、PRパーソンの育成講座も開催しています。その1つに「広報・PRプランナー&PRライター養成講座」というものがあり、期間は半年、2時間の講座が月2回あります。PRのお仕事は大変ですが、楽しいことも多いので、生徒さんに勉強だけで実際の現場を体験してもらうことで「働くことってこんなに楽しいことだったんだ」という感想をたくさんいただいてきました。

—【楯】PRや企業広報はいま人気の職業のようですね。

—【上村】はい。ですが、企業の中で運良くそのポジションに配属される以外に、PR担当者として経験を積める場所がありません。そういった背景もあって、PRを志す人が学び、独立できる場所を提供したいという思いでこの講座を開催しています。さらには、日本にはPRできる人が少ないので、業界課題への取り組みでもあります。

インターネット時代のPRのあり方

—【楯】PRプランニングや人材育成を行われているのですね。その中で御社ならではの特色はどういった点でしょうか?

—【上村】PRの手法というか、取り組み方のスタンスはいろいろあります。「とにかく記者発表、テレビ露出、イベント開催」という方法も確かに知名度の向上にはつながりますが、一過性の話題作りで終わってしまうこともあります。私はそれが良いPRだとは思いません。

PRの範囲を狭く「マスコミ向けのメディアリレーション」だけにしてしまうと、「なぜ、この企業はこのプロダクトを作っているのか?誰が、どんな思いで、どうやって取り組んでいるのか?」といった情報をきめ細かくお客様にお伝えすることが難しい場合もあります。さらには、最近はテレビや雑誌を見ない人も多くなってきました。ですから、オウンドメディアやソーシャルメディアなどを駆使して情報を発信するのも大事なのです。

そうすると「書く技術」が必要になりますよね。とは言っても、広報やPRの担当になった人が書くことで伝えるためのノウハウを持っているケースは稀です。なので、私たちは「御社の中に既にある情報を、こういう切り口で世の中に発信していくことが確実なPRの成果につながりますよ、というアドバイスをしつつ、担当者の方がウェブ向けの文章の書き方などを学ぶ場所をご提供しています。

方向性としては「1,000人に届けて10人を感化する」より「10人に届けて、10人を感化する」コンテンツをつくっていくことが、これからの時代の情報発信のあり方だと思っています。「お客さんがこう考える、ここをギモンに思うだろう」という視点で情報を出して行けば、自然と書くことは決まります。あとは、発信を続けていれば取材がきたり、提携の話が進んだり、という効果が出て、手応えが生まれている事例も多くあります。PVなどの数値だけでは測れないエンゲージメントを深めましょう、という意識をもってPRに取り組んでいくのが本来のPRです。

独立を目指すなら海外を経験するべきか?

—【楯】この先の展開については、どうお考えですか?

10年先というような期間では、まだ考えていません。未来は現在からは正確に予想できないので、どういう時代がきても対応できるよう心がけています。時代はどうあれ、それにこだわり過ぎず、私たちの会社は私たちらしくやっていければとおもいます。

—【楯】労働人口の減少などを背景とする「(経済成長における)日本限界論」がリアイティをもって語られる時代です。そういった状況についてはどのようにご覧になっていますか?

—【上村】「働き方改革」などの動きもあり、日本はこれからもっと自由に働ける場所になるとおもいます。個人や小さな組織で仕事をするという場合に「日本人もアメリカに行った方が良いのか」というと、そんなことはないと思います。東京を中心にフリーランスには追い風が吹いていますし、日本は昔に比べてとフリーで働きやすくなっていると思います。

日本にいながら、海外の会社と仕事をするという方法もありますし「海外に出ることが絶対」ではありません。大事なのは生き方や考え方を変えれば、目を輝かせて仕事へ向う日々がつくれるということです。会社に入って窮屈に感じながら生きている人たちには、もっと好きに生きて楽しく仕事ができるようになる選択肢があるよ、ということをお伝えしていきたいですね。

—【楯】最後に「キーパーソンを目指す人」へのアドバイスやコメントがあればお願いします。

—【上村】私は「悩みと向き合うと良い答えが出る」と思っています。だから、悩むのが好きです。悩んで、悩んで、悩み抜いた人ほど、いつか自分にとって最高の場所にたどり着けると信じています。「悩む」という言葉を選ぶと伝わりづらいかもしれませんが「感じること」を大切することと、それについて「考える」という表現が近いかもしれません。そこから答えを見つけるためのヒントを私たちが提供できそうなら、協力は惜しみません。

—【楯】本日はたくさんお話しいただき、ありがとうございました。

—【上村】ありがとうございました。

Company
企業 itty selection Inc.
所在 東京都渋谷区神宮前3-25-18 THE SHARE
業種 PRプランニング
広報、ライター、PRプランナーの養成講座の運営
海外企業の日本におけるPR支援
URL http://www.ittyselection.com/



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