「宇宙を社会インフラに」小型衛星のパイオニア・アクセルスペースCEO・中村友哉が語る宇宙ビジネスの未来

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Profile
プロフィール
氏名 中村友哉
会社名 株式会社アクセルスペース
略歴 1979年生まれ、三重県出身。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中に手のひらサイズの人工衛星「キューブサット」の開発に従事し、2003年に世界で初めて打ち上げ・軌道上運用に成功。その後も研究の傍ら合計3機の超小型衛星プロジェクトに関わる。卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年に株式会社アクセルスペースを設立、代表取締役に就任。2015年より宇宙政策委員会部会委員を歴任。第22回「Japan Venture Awards」にて、経済産業大臣賞を受賞。
Interviewer
松嶋活智
松嶋活智

2003年、世界で初めて超小型衛星が宇宙に打ち上げられた。開発を手がけたのは、東京大学と東京工業大学の学生たちだ。それを機に世界中で小型衛星の開発が広がり、宇宙ビジネスは急拡大。2040年には市場規模が100兆円にまで成長するという説もあり、日本政府も宇宙ビジネスを積極的に推進している。 国内でも宇宙ビジネスに挑戦する企業がいくつか生まれている中で、小型衛星を活用した世界的にも珍しいビジネスを展開しているのがアクセルスペースだ。同社のCEOである中村友哉氏は、前述した超小型衛星の打ち上げに携わったメンバーでもある。今回は中村氏を招いて、同氏の過去、宇宙ビジネスのこれからについて話を伺った。

化学好きから一転、大学で宇宙の道へ

—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】最初に自己紹介をお願いいたします。

—【話し手:中村氏、以下:中村】株式会社アクセルスペース(以下:アクセルスペース)の代表取締役CEOをしている中村友哉と申します。

アクセルスペースの事業を一言で説明すると、人工衛星を活用した宇宙ビジネスです。地球観測衛星プラットフォーム「AxelGlobe」、人工衛星のトータルソリューションを提供する「AxelLiner」といった二つの事業を展開しています。

—【松嶋】大学で人工衛星を開発するプロジェクトに関わるようになったとお伺いしました。昔から宇宙に興味があったのですか?

—【中村】いいえ。宇宙に関心を持つようになったのは、大学に入ってからです。それまでは、宇宙とは全く関わりのない生活をしていましたね。

地元はのどかな田舎町で、私が子どもの頃は周辺に塾もなく。小学生の頃は近くの川で魚を取って遊ぶなど、放課後は外で遊ぶのが好きな子どもでした。

—【松嶋】それは意外です。小さい頃から勉強がお好きだったのだろうと思っていました。

—【中村】勉強が好きというよりも、好奇心が強いのだと思います。昔から、新しいことには積極的に挑戦していました。加えて探究心が強く、好きなものを見つけると、納得するまで突き詰めるタイプです。とはいえ、何か一つのものに固執するのではなく、ある程度まで突き詰めた結果「これは自分が追求すべきものではない」と判断したら別のものに切り替えるなど、自分の中で興味の対象がはっきりとしているのは特徴かもしれません。

そういった性質も関係していたのか、高校では有機化学に打ち込んでいて、漠然としたイメージではありましたが「将来は研究者になる」と考えていました。

—【松嶋】大学でも最初は有機化学を専攻されていたのですか?

—【中村】いいえ。私が通っていた東京大学では、最初の2年間は全学生が教養学部に所属します。その中でいくつかの科類に分かれていて、2年生の後半で学部を選ぶシステムですね。

私の場合、入学時は教養学部の理科一類に所属していて、学部を選ぶ際に航空宇宙工学科を選択しました。

—【松嶋】なるほど。航空宇宙工学科に進まれた理由についてもお話しいただけますか。

—【中村】大学に進学して深い領域の勉強をするにつれ、有機化学に関する関心が薄れていったからです。そこで、新しいことに挑戦したいと考えるようになり、さまざまな学科の教授の話を聞いている中で、超小型人工衛星の開発に強く惹かれました。

今でこそ、学生が人工衛星を開発して打ち上げるのは、珍しいことではなくなっているかもしれません。しかし、当時は「人工衛星」というと、国家レベルのプロジェクトでしかできないものという認識が一般的でした。自分たちのような学生が挑戦できるものだとは思っておらず、非常に衝撃を受けましたね。実際の開発現場にも行かせていただき、先輩方が楽しそうにしている姿を見て、参加することを決めました。

夢中になって取り組んだ、小型衛星の開発

—【松嶋】3年生から航空宇宙工学科で学び始めて、最初は戸惑うことも多かったのでは。

—【中村】ええ。最初はまさに「右も左も分からない状態」です。先輩方の会話に出てくるアルファベットが、何を意味するのかもわかっていませんでした。勉強を進める中で少しずつ単語の意味を覚えて、3ヶ月ほど経った頃には会話の意味がわかるようになっていましたね。

—【松嶋】人工衛星を開発するプロジェクトでは、どのようなことを担当されていたのですか?

—【中村】一例を挙げると、衛星の環境試験を担当したことがあります。振動や放射線、真空、温度などについて試験を重ねていくといったもので、衛星が宇宙で生きていくために必要な試験ですね。そのほか、人工衛星に取り付けるカメラの開発もしていました。

—【松嶋】なるほど。カメラの開発などは、1人でされていたのですか?

—【中村】各工程を1人の学生が担当していたわけではなく、チームで役割分担をしながら開発を進めていました。具体的には、私が所属していた環境試験を扱うチームやカメラチーム、人工衛星のコンピューターを作るチーム、電源を扱うチーム、通信を扱うチーム、姿勢制御を扱うチーム、構造を扱うチーム、に分かれていましたね。プロジェクトには20人ほどの学生が関わっていて、5人ごとにチームを組むことが多かったため、各メンバーが兼務する形で作業を進めていました。

—【松嶋】少数精鋭で開発されていたのですね。打ち上げに成功したのはいつ頃だったのでしょうか?

—【中村】2003年です。一辺10cm・重さ1kgの超小型衛星(キューブサット)の打ち上げに成功したのは、世界で初めてのことでした。

当時、私は修士1年生で、あれは非常に感動的な瞬間でしたね。不具合の対応に追われたり、研究室に泊まり込んだり……。1~2年かけて苦労しながら開発してきたものが打ち上げられて、宇宙からの信号が自分たちの元に届くというのは、強烈な体験でした。あの体験がベースとなって、小型衛星の開発を続ける道を模索し続け、今の私があります。

—【松嶋】それは感動的な体験ですね。少し気になったのが「修士1年生」ということは、大学院に進学されていたということですよね。最初は研究職を目指されていたのですか?

—【中村】「研究者になりたい」「教授になりたい」といった夢があったわけではありません。正式に研究室へ配属されるのは4年生からで、大学の期間だけでは小型衛星の開発に携われる期間が短いのです。そのため、研究者を目指していなくとも、開発を続けるために大学院へ進学する学生は珍しくありませんでした。ちなみに、私が研究室にいたのは6年間で、在学中には合計三つのプロジェクトに関わっていましたね。

「目から鱗が落ちた」会社誕生のきっかけとなった教授の言葉

—【松嶋】アクセルスペースを立ち上げられたきっかけについてもお話いただけますか。

—【中村】博士課程は3年間で修了しますし、2年生の後半くらいになると将来のことを考えるようになりました。最初は起業するなんて夢にも思ってもおらず、人工衛星開発に携われる会社に就職しようと考えていました。

—【松嶋】大学に残る意思はなかったのですね。それはなぜですか?

—【中村】アカデミックな世界から社会に対して技術を発信することは難しいですし、研究とビジネスでは開発の目的も180度異なるからです。研究を目的としている場合、技術が発展するスピードも遅くなるでしょう。

私は三つの人工衛星を開発する中で「人工衛星は社会に役立つ技術だ」という確信を持っていましたし、驚くような速さで技術が進化している時代において、よりスピードを上げるためには、ビジネスとして展開する必要があるだろうと考えたのです。

しかし、2000年代前半に小型衛星ビジネスを展開していた会社は存在しません。先に述べた通り、私は小型人工衛星の開発に携われる会社を探していたので、当時は途方に暮れていました。

将来のことを考えて悩んでいると、研究室の教授から「大学発のベンチャーを作る準備をしている。一緒にやらないか」と誘っていただいたのです。

—【松嶋】なるほど。それがきっかけだったのですね。

—【中村】ええ。お声がけいただいた際は「会社がないなら作ればいいのか」と、目から鱗が落ちた気分でした。

二つ返事で引き受けることにして、博士課程修了後は研究員として大学に残り、ベンチャーを立ち上げる準備を進めていました。

—【松嶋】具体的にはどのような準備が必要だったのですか?

—【中村】端的に言うと、資金調達ですね。起業準備を進めていた2007年当時は、宇宙ベンチャーに投資する投資家はいませんでした。話すら聞いてもらえない状態です。「資金を調達するためにはクライアントを見つけるしかない」と考え、営業活動をしていました。

—【松嶋】前例のないビジネスに関して交渉するのは、大変だったのではないでしょうか。

—【中村】大変でしたね。今はさまざまな宇宙ビジネスがありますが、当時は「宇宙ビジネスなんて、変なことをしている人たち」という見られ方が一般的でしたから。また、私自身はエンジニアであり、交渉スキルがなかったため、思ったように営業活動の成果が出せずに焦っていました。

しばらくして大手企業と契約を締結することができた時は、非常に嬉しかったです。「このチャンスを無駄にしてはいけない」と思い、共同創業者とともに2008年の8月にアクセルスペースを立ち上げました。

小型衛星だからこそ成立した、世界的にも珍しい「宇宙ビジネス」

—【松嶋】アクセルスペースの事業内容について、改めてお話いただけますか。

—【中村】小型人工衛星に関する二つの事業を展開しています。一つ目は当社で開発して打ち上げた人工衛星で定期的に地上を撮影し、その画像データや、データを解析したソリューション解析を提供する「AxelGlobe」。二つ目は、設計・製造・運用を含めた小型衛星のワンストップサービスを提供する「AxelLiner」です。本来であれば、宇宙ビジネスを実現するのには数年単位の準備期間が必要となりますが、私たちは製造開始から1年以内に小型衛星を打ち上げることを目指しています。それにより、宇宙利活用の敷居を下げられると考えています。

—【松嶋】会社を立ち上げた当初から2つの事業を手がけていらっしゃったのですか?

—【中村】いいえ。最初は特定のクライアント向けに衛星を開発していて、現在とは異なる事業でしたね。ただ、そのような事業ではスケールが難しいのも事実。継続していたら会社の規模を拡大できないと判断し、事業構造を変えて2015年に「AxelGlobe」をスタートさせました。「AxelLiner」は、2022年に発表したばかりで、比較的新しいサービスですね。

—【松嶋】なるほど。「AxelLiner」を開始された理由についてもお話いただけますか。

—【中村】技術の進化とともに、社会における衛星の需要が増加したからです。衛星を開発するには、技術的な難易度をクリアするだけでなく、許認可の取得や保険の手配など多くの手続きが必要となります。社会的な需要が増えている中で、既存の方法を続けていては、いずれ開発が追いつかなくなることは目に見えていました。つまり、業界としては衛星の効率的な量産方法を確立する必要があった。私たちはこれまで9機の人工衛星の製造・打ち上げ実績を通じてノウハウが蓄積されていましたし、この状況をピンチではなくチャンスと捉えて「AxelLiner」を始めました。

—【松嶋】それぞれの事業について、クライアントはどのような企業が多いのでしょうか?

—【中村】まず「AxelGlobe」からご説明すると、スマート農業や土地管理、環境モニタリング、森林、防災、都市開発など、さまざまな領域のクライアントにご活用いただいています。ドローンや他機器ではカバーできないような広大なエリアの撮影も可能です。

「AxelLiner」は、これからクライアントに提供していく段階であり、2023年度から営業活動を開始したいと考えています。「AxelGlobe」と同様に、特定の領域に特化したものではなく、衛星を活用したビジネスを展開したいと考えている事業者の方にぴったりのサービスです。

—【松嶋】なるほど。ちなみに、小型衛星とその他の人工衛星との一番大きな違いはどういったところにあるのでしょうか?

—【中村】小型衛星は大きなものと比べてできることが少ないのも事実ですが、コストを抑えながら早く開発できるのが一番のメリットです。

私が学生時代に携わっていた研究室で一番最初に作った人工衛星は1キロでした。段々サイズが大きくなって、三つ目のものは約10キログラム。その程度の大きさになると、1キログラムの人工衛星と比べて機能が格段に増えます。三つの人工衛星を開発し終えた時には「もう少し大きいものができれば、実用化できるのではないか」と思いました。

というのも、国が開発するような人工衛星は、重量が「トン」規模なんです。それほどまでに巨大なものを開発するとなると、莫大なコストと時間がかかります。それでは、宇宙ビジネスが発展することもないでしょう。しかし、数十キログラムの人工衛星であればコストを大幅に下げることができますし、実現できればビジネスにおけるニーズが増えるのではないかと考えたのです。

—【松嶋】アクセルスペースの宇宙ビジネスは、小型衛星だからこそ実現したものなのですね。

—【中村】ええ。私たちがキューブサットの打ち上げに成功するまで、人工衛星は研究を目的としているケースがほとんどでした。そのため、観測機器は大きなものでなければいけないし、衛星がビジネスになるとは誰も考えていなかったのです。

どれほど性能が良い製品であっても、5年の開発期間と何百億のコストがかかるとなると、誰も購入しないでしょう。衛星を世の中のニーズに合わせていくためには、コストを下げて開発スピードをあげなくてはいけません。小型衛星がなければ、宇宙ビジネスを成立させることはできなかったと思います。



“アクセルスペースが開発・製造し、現在も運用中の小型人工衛星GRUSからの撮影画像。植生の分布域、活性度を把握することができる。”



目指すは、宇宙ビジネスで世界をリードする会社

—【松嶋】今後の展望についてもお話いただけますか。

—【中村】「AxelGlobe」は、自社の小型衛星「GRUS」5機体制で運用しており、撮影頻度は2日に1度程度。まずは10機体制に増やし、毎日撮影ができるように撮影頻度をあげることが目標です。クライアントのニーズに合わせて、フレキシブルにサービスを提供できるような仕組みにしていきたいと考えています。

「AxelLiner」については、順調に開発が進んでいて、2024年の第一四半期に実証衛星初号機「Pyxis」を打ち上げる予定です。実は現在多くのご相談をいただいていて、この事業は社会的ニーズがあるものなのだと確信を得ています。

事業を計画通り進めるためにも、安定的に開発できる体制を早急に構築したいと考えていますし、会社として採用にも注力していく予定です。これから数年はサービスを安定的に提供するための足腰を鍛えつつ、グローバルに案件を獲得していくことが重要だと考えています。開発に携わるエンジニアはもちろん、ビジネスサイドの人材ニーズが高まっていますね。

—【松嶋】組織を運営する中で、意識されていることはあるのですか?

—【中村】現在、アクセルスペースには120人ほどの社員がいて、メンバーの3割以上は外国籍です。職種の幅も広く、多様な人々が集まっていて、世界的に見ても珍しい会社だと思います。

さまざまな人が一つの会社に集まってくれていること自体が、奇跡のようなものでもあります。メンバー全員が同じ方向を向いて、一つのゴールに向かって走っていくのは非常に難しいことですし、正解はまだわかりませんが、私たちとしては人事施策にも力を入れています。非常に面白い環境だと思いますし、宇宙ビジネス業界に挑戦したい方からのご応募をお待ちしております。

—【松嶋】最後に、読者に向けてメッセージをいただけますか。

—【中村】アクセルスペースのビジョンは「Space within Your Reach〜宇宙を普通の場所に〜」です。需要が増えているとはいえ、宇宙を活用したビジネスを始めるのは、一般的にはハードルが高いのも事実でしょう。私たちは、事業を通して、宇宙を社会のインフラにすることを目指しています。

小型衛星を活用したビジネスと製造の両方を行っている会社は、世界的にもほとんどありません。私たちは宇宙ビジネスにおいてデファクトスタンダードを目指せる位置にいると思っていますし、世界をリードできる会社だと自信を持って言えます。

とはいえ、我々だけで世界を目指すことは難しいですし、成長していくためには資金も必要です。これから宇宙ビジネスがより大きなものになっていく中で、アクセルスペースとしても急速に成長していかなくてはいけません。パートナーや投資家の皆様、さまざまな方と協力しながら、世界を目指したいと考えています。私たちのビジネスに関心のある方がいらっしゃれば、ぜひお気軽にお声掛け頂けますと幸いです。



<中村さんが経済産業大臣賞を受賞した「Japan Venture Awards」とは>


中小企業基盤整備機構が主催する、革新的かつ潜在成長力の高い事業や、社会的課題の解決に資する事業を行う、志の高いベンチャー企業の経営者を称える表彰制度です。


2000年以来、328名のベンチャー経営者等が受賞し、それぞれの事業とともに日本を支えるリーダーへと成長を遂げています。次なる日本のリーダーとして果敢に挑戦する起業家を、ロールモデルとして広く紹介することで、創業機運を高め、日本における創業の促進を図っています。


ご興味のある起業家はぜひ公式ウェブサイトもご覧ください。


» 公式ウェブサイト



Company
会社情報
企業名 株式会社アクセルスペース
URL https://www.axelspace.com/ja/