クラウドファンディング6949%達成!斬新なアイデア発想と低迷する業界での挑戦を支えるのは、人間味

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氏名 栗田匠
肩書 株式会社人間味 代表取締役社長
出生 1988年
服飾専門学校を卒業以来、アパレル業界に身を置く。2019年に独立。ネクタイのサブスクサービス「スマタイ」、暗闇の中で光るエコバッグ「Spectre」など、ユニークな事業を展開。

インターネットを介して不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達するクラウドファンディング。支援者から共感を得ることができれば、誰でも簡単に資金を調達して夢を実現できる手段として2010年以降、日本でも盛り上がりを見せている。2020年、クラウドファンディングサイト「Makuake」にて、夢が実現する目標金額を、6949%達成し話題となった商品がある。暗闇で光るエコバッグ「Spectre」だ。今回は、その仕掛け人、栗田 匠へ独創的なアイデアの発想法と挑戦への心構えを聞きに、インタビューを行った。

※ 本インタビューは緊急事態宣言が発出される以前に、感染症対策を行なった上で実施しています。また、取材後2週間が経過した時点で、関係者に新型コロナウィルスに関する症状はありません。

クラウドファンディング、1stチャレンジを終えて

—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】『ザ・キーパーソン』は、ジャンルや年齢を問わず活躍されている方にインタビューし、時代のキーパーソンから学ぶことをコンセプトにしたメディアです。今日は「Makuake」にて大成功を収めた「Spectre」や、ユニークな製品を手がける栗田さんの軌跡や製品が生まれた背景などをお伺いしたいと思います。まずは、簡単に自己紹介をお願いできますか?

—【話し手:栗田氏、以下:栗田】栗田匠と申します。1988年11月23日生まれで、32歳です。株式会社人間味では、サブスクリプションでネクタイ借り放題の「スマタイ」と、ネクタイのEC販売「MAN ABOUT TOWN」を行っています。ネクタイ以外にも「Spectre」という暗闇ライフスタイルブランドを立ち上げました。暗闇ライフスタイルブランドとは、暗闇で反射する特殊なリフレクター素材を活用し、夜道でも安全・安心かつデザイン性に富んだプロダクトを展開するブランドです。2020年の6〜7月にクラウドファンディングで支援を募って実現させ、それを契機にブランド化しました。今はそのアパレル2事業を展開しています。

—【松嶋】クラウドファンディングは、再度挑戦されるんですよね?

—【栗田】国内のクラウドファンディングのMakuakeとアメリカのクラウドファンディングのKICKSTARTERに挑戦する予定です。今はその準備をしています。お客様からご意見をいただいたり、自分たちで使った使用感から課題が見つかったので、そこを改善したversion 2.0をもって挑戦したいですね。

—【松嶋】海外へ挑戦されるのはなぜですか?

—【栗田】Instagramに商品を載せたら、海外の方からDMをいただくことが多くて。海外でもいけるかもと思いました。

—【松嶋】たしかに海外の都市圏に住む方々が好むような素材ですよね。

—【栗田】今は日本だけの展開でもなんとかなりそうです。ただ、今後はグローバル展開を見据えていないと、もの作りは厳しくなると思います。と言うのも、日本は島国なので、拡大しても数の上限は決まっていると思うんです。昨今では、アパレル業界自体も業績が落ちていると言われていますよね。特にコロナ禍でアパレルは、不要不急の不要に入っちゃっているんじゃないかな。

—【松嶋】家にいる時間が多いことからルームウェアが売れて、外向けのおしゃれ着はかなり売り上げが落ちていると、聞きますね。

—【栗田】そうですね。僕は「Spectre」事業で、外着を単なるオシャレではなく、新しい価値を見つけられたと思っています。「Spectre」は、安全・安心という価値をアパレルに付加しました。その価値を起点に、異業種との取り組み、例えばペット業界とか植物とか、コラボレーションでも世界を広げてといけそうだと感じています。

社名は、株式会社人間味

—【松嶋】「人間味」という会社名にはどんな想いを込めたのでしょうか?

—【栗田】会社名を考え始めるときに、日本の会社なので、英語ではなく日本語を使いたいと思いました。僕は音楽が好きなのですが、特に日本語の曲が好きで。ゆらゆら帝国や椎名林檎など、言葉選びが面白い人が好きでした。そうして日本語で良い言葉がないか探していたら、ふと会社をやめて独立した直後のことを思い出しました。工場や職人さんに挨拶まわりをしたときに、本来は前職との兼ね合いで取引できなくなるはずが、「栗田さんとならやりますよ」と言ってくれた方が何人もいてくれました。人のつながりや人間力あっての仕事だと、感動しました。その体験から、人間らしい味を作っていきたいと思って「人間味」という名前にしました。

僕は事業を通して、今ある日本の良いものをアップデートしたい想いがあります。僕が今着用しているマスクストラップも、弊社で開発した商品なんです。これは京都の伝統工芸品、京組紐とリフレクターの糸を融合させました。そうやって伝統技術を今っぽく、アップデートしていきたいんです。アップデートすることで、伝統技術を後世につないでいくことができると思っています。実は職人さんたちも、技術を伝えていくことを悩まれているんです。

—【松嶋】使いどころがわからない技術もありますよね。

—【栗田】そうなんですよ。ちょうど1週間前に京都へ行ったときも、使い方に何年も悩まれている職人さんとお会いしました。その職人さんは、コンピューターを使って、写真をプリントするみたいに西陣織を織ることができる技術「電子ジャカード」の使い手です。過去に百貨店への卸が決まっても、1回きりで終わってしまうことが多いそうで。

日本の伝統技術と言われても、特に若い人はその魅力だけじゃ買い物をしません。そこに新規制やユニークさなど、今までになかった新しい要素を足していかないといけない。僕はいいもの同士を組み合わせることで新しいものを作って、みんなにそれらを触れるきっかけ作りをしていきたいんです。

暗闇で光るエコバッグにも、日本の特許技術

—【栗田】「Spectre」も、福井県にある丸仁さんという会社さんと開発をしました。丸仁さんも、これまでは大手メーカの下請け業が中心だったそうです。「Spectre」の話をした際、「ぜひやってください」と仰られて、クラウドファンディングのプロジェクトが始動しました。リフレクターはこれまで靴の一部など、安全を目的とした需要ばかりで、全面的に押し出したアパレル展開はされていませんでした。今回クラウドファンディングが成功したのは、皆さんに商品が受け入れられ、安全性や斬新さなどの良さも伝わったんだと思います。自分がやりたいと思ったことができていると手応えを感じたプロジェクトでした。

—【松嶋】伝統工芸が好きな方は新しさよりも、元からある日本らしさを強調したいと思われていることが多いと思います。その点については、どう思われますか?

—【栗田】僕も「伝統工芸」に興味はあるんですけど、触れた時に「面白い」という感情が最初に湧いてくるんです。そして、商品にするときは僕の想いや感情もプラスしたいんです。例えば、今回のマスクストラップだったら、京都の組紐という伝統的な技術とオーロラリフレクターを融合させてみたいという、僕の想いが入っています。どちらも日本にある技術ですが、今まで交わることがありませんでした。その両方から感じ取った、すごさ、面白さをどうしたら活かせるか。自分の世代である30代や、もっと若い子がどうしたら使ってくれるかを考えた結果、融合に至りました。

もちろん伝統に手を加えず、そのままが好きだという方もいらっしゃると思います。でも、そのままだと、たくさん売れるものでもないので、高価なままになってしまいます。そうではなくて、みんなが取り入れられる、ファッショナブルな要素を付加していきたいんですよね。

アパレルを通じて、カルチャーを作りたい

—【松嶋】栗田さんはファッション業界でずっとお仕事をされてきましたが、どういうお仕事をされてきたのか具体的にお聞かせ頂けますか?

—【栗田】ずっと地元茨城にいましたが、18歳の時に服飾の専門学校へ進学するために上京しました。専門学校を卒業後は、販売を2年程経験しました。しかし、給料の安さ、朝から晩までの長時間労働に不安を感じて、もう少し稼げる仕事をしたいと思うようになりました。その後はスポーツバーの店員を1、2年やったりもして。アパレル業界に戻ったのは、メッセンジャーという自転車便をやっていた時に腕を骨折したことがきっかけでした。しかも、そこは過去に2回骨折した場所で。

—【松嶋】全部同じところとは、不思議ですね。

—【栗田】以前、手術した時にプレートを入れたんですけど、そのプレートが支えになってポキッと折れちゃって。それまでは色々と行動していましたが、ちょっと立ち止まって、物事を俯瞰して見る余裕ができました。そうすると、ファッションや音楽、スポーツの裏にはカルチャーがあると感じたんです。例えば音楽では必ず誰かに影響された経験、ルーツがあったり、スポーツにはその競技独特のかっこよさがあったり。そのカルチャーの存在が、自分の中で大きくなっていったんですよね。

もう1回アパレルを、商品企画の立場でやりたいと思ったんです。カルチャーを作ってみたいなって。そう思っていたら、たまたまネクタイ屋のスタッフ募集を見つけたんです。でも、僕はそれまでネクタイとは無縁で、1本も持っていませんでした。唯一、結婚式に出席するために買った蝶ネクタイだけを持っていました。面接の時は、それを着けて訪問しました。そうしたら、社長が「そんなやつ初めてだ」と言って、気にいってくれたのかわからないですけど、採用してくれたんです。そのエピソードからも感じ取っていただけるとは思いますが、正直、ネクタイのことは何も知らなかったんですよね。

—【松嶋】それでも、ネクタイに興味を持てたのでしょうか?

—【栗田】ネクタイ屋に応募しようと思ったのは、ブルックス・ブラザーズの販売員でネクタイ売り場を担当し、ラルフローレンはネクタイ事業からスタートしたんです。僕はラルフローレンが好きだったので、ラルフローレンがやっていたなら、僕もやろうかなみたいな理由でした。入社初日にTシャツで出勤したら、「初日ぐらいYシャツで来い」とすごく怒られたことがありました。そういった珍事件もあって、僕のキャラクターや立ち位置ができて、ネクタイ以外のこともやらせてもらいました。もちろんネクタイもしっかり勉強して、スーツが好きなお客様への接客もできるようになりましたよ。あとは、他社がやらないような面白いものも提案・製作していました。そういった経験が活きて、独立につながったんだと思います。

重視したいのは、伝統よりも人間味

—【松嶋】そこでは何年ほど、お仕事されたのですか?

—【栗田】6年ですね。元々30歳で独立したいと思っていました。何をするかは決めていなかったんですけど、漠然と昔から考えていました。今は独立して2年目です。

—【松嶋】独立前にも伝統や日本の素材に触れたり、好きになるきっかけはあったのでしょうか?

—【栗田】はい。京都や山梨など、各地方の方とお取引はありました。仕事もメーカー的なポジションだったので、ネクタイを中心に、バッグやベルト、帽子などの作る現場とコネクションもありました。

ネクタイはニッチな業界で、家族経営の工場とか多いんです。シャツを扱う会社の規模は100人ぐらいですが、ネクタイは多くても20人ぐらい。小規模なんですよね。人間らしいところもあって、工場のおばちゃんが「もうできない。やりたくない」とか駄々をこねたりするんですよ。僕はそんなところも面白いと思っていました。ネクタイの作り方はすごくアナログなんです。生地の配色を、300色ぐらいある糸チップを1個ずつ当てて選んでいきます。

—【松嶋】絵やイラストなど、デザインが施されているものも、同じように作るのですか?

—【栗田】そうですね。細かいデザインは任せますが、例えばストライプのピッチ幅をmm単位で指示したり、柄の大きさの大小を決めたりしますね。職人さんも、プライドをもって作る人や、好き嫌いがある人もいたりして、人間らしくて面白いですよね。

マスクストラップも京都のネクタイ屋さんから組紐屋さんを紹介していただいたんです。組紐を実際に見た時も、そのままだと売れないなと感じたので、「リフレクターの糸をなんとか入れられませんか?」とお聞きしたら、「できないですね」って言われるところから始まりました。僕は海外の文化、特にアメリカとかすごい好きです。やっぱり格好いいなと思っています。でも、日本だっていいところはいっぱいあるので、自分は好きなアメリカテイストと日本の良さを融合させたり、押し出したりしたいなと思います。

—【松嶋】もしかしたら、栗田さんは顔がみえる人の仕事場をなんとかしたい気持ちが強いのかなと思いました。職人さんだけではなく、その仕事場に関係する人間味が溢れる人たちと会って、人も商品も面白いから、なんとか形にしたい思いがあるのかなと。

—【栗田】業界的な体質というか、受発注の関係性から、工場へ上から目線で注文するメーカーの人がけっこう多いんですよ。僕はあまりそれが好きじゃなくて。みんながwin-winになるのが商売で大事なことだと思います。相手も自分も適度に儲ける。今も値下げよりも、しっかり必要な分は請求するように伝えています。そうして、みんなが楽しくやれるのが一番いいなと思います。仕事相手は顔が見える人の方がいいですね。取引する前も、1回は会いたいなと思います。

アパレル業界が不調な要因

—【松嶋】日本のアパレル業界は全体的にチャレンジしない体質な気がします。流行やニーズに合わせるばかりで、変わったものを作る遊び心は少ないように感じます。

—【栗田】それはOEMを請け負って、感じた課題ですね。びっくりしちゃった話があるんですけど、過去に「セールを見込んだ単価にしてくれ」と言われたことがあったんです。相手がいくらで売るかは、僕にはわからないですが、例えば半額セールをしても利益が出る売価設定をしてくれというお話でした。それは相手に依頼するものではなくて、定価で売る努力をするべきだと思うんですよね。それを僕が了承してしまうと、結果的に仕入れ先さんにも無理をしてもらうことになってしまう。適正な評価を受けたもの、を適正な価格で売りたいですね。

ネクタイ屋は百貨店さんに販売してもらうのが主流です。しかし、販売を委託すると百貨店さんが利益を載せるので、売価がどんどん高くなる。僕は販売を委託せず、直接自分販売するので、安価に提供できています。国産のものは平均的に10,000円前後しますが、僕は6,800円税込みで販売しています。ほぼ半額の値段で、業界的にタブーですね。工場さんのためにも、数を売ることも重要だと思っています。10,000円で売れば利幅を多くとれるかもしれないですけど、それよりも数を多く売って、工場をまわす方がいいと思っています。

—【松嶋】お金をたくさん稼ぐよりも、適正な価格で評価されたいというお気持ちを感じます。

—【栗田】めちゃめちゃ稼ぎたいというより、楽しく仕事をしたいですね。楽しくやるために、一定のお金があった方がいいという考え方ですね。

独立してから、特に相談をいただくことが増えました。今も西陣織のネクタイを、従来のシルク素材ではなくポリエステルを使ったものを用意しています。ポリエステルだと洗えるので。それもタブー的な価格設定で提供しています。西陣織組合の人に安すぎるって怒られたらしいですよ。でも、本数が売れるようになって、結果が出ると周囲の目も変わったそうです。新しいことをすると非難はあるんですが、まずはやってみることが大事だと思います。

—【松嶋】伝統工芸は、価値がわかる人に届けたい、価値があるから高価でも良いという価値観があると思います。ただ、その価値観だと、市場はどんどんせまくなりますよね。長期的には他の製品に侵蝕されて、残りにくくなる。そうすると日本の素材や伝統工芸が生き残ることが難しいんだと思います。

—【栗田】「西陣織は10,000円」という感覚が僕の中にはなくて。西陣織の良さはちゃんと伝えたいし、ポリエステルを使うのも技術がないとできないですよ。中国製だったら安くできますが、品質が悪かったりします。僕らの製品はもっと良いものですが、量販店さんとほとんど同じ値段で売っています。安いとあまり自信がないと思われてしまいがちですが、すごくいいものと自信をもってやっています。それが伝わると、気に入って2本、3本とリピートしてくれる方もいます。ネクタイは市場的に減少傾向なので、その中でどう新しいものをやれるかだと思うんです。サブスクリプションサービスも、ネクタイを資本に新しいサービスとして見せていきたいと思っています。アパレル業界は、オンライン販売などありますが、まだまだめちゃくちゃアナログです。できることはたくさんあると思います。

—【松嶋】ブランドは新しくても、昔から続く会社が殆どですもんね。

—【栗田】多いですね。今は個人に力があるので、インフルエンサーがブランドを立ち上げていろいろブランドがありますよね。僕はインフルエンサーではないので、ちゃんと物作りをしないといけない。Tシャツのプリントを変えればいいわけではない。オンライン化したいという相談も多くて。そこに入り込まない人が多いので、そこは僕らぐらいの世代がしっかりやれば、今後は勝てるかなと思ったりします

—【松嶋】今までもお店で売れているので、そこに時間とお金がかかっていますよね。

—【栗田】今はアパレルに限らず、コロナ禍でオンライン需要が高まってます。逆に店舗が沈んでいるので、店舗のあり方みたいなところに皆さん悩間れていますね。

でも、軒並み店舗が無くなっちゃうと、街も寂しくなっちゃいます。だから、どういうふうにお店を使うか。本当は色々考えれば、おもしろいことができそうなんですけどね。場所があるというのは、強いと思うんですよね。

—【松嶋】場所をもつと、お金もかかりますからね。

—【栗田】見てもらえる空間は、アパレルには必要だと思います。この1年間、ずっとオンラインをやっていて、特に感じます。実際に商品を見て、触った方が、商品の良さがちゃんと伝わります。アパレルのオンラインが難しいのは、そこにあるかもしれないですね。デザインはオンラインで伝わっても、素材や色などのニュアンスやクオリティはオンラインだと、伝わりません。

—【松嶋】店舗でやるのは楽しみですね。

—【栗田】来年には出店を考えたいです。小規模でも、人が来て見れる空間を作りたいです。オンラインでやってきた人ほど、店舗をやりたい人はいると思いますね。

ネクタイも売れないと言われ続けているんですけど、僕はそんなこと全然思っていません。オンラインで売れるなら、まだやれることはたくさんある。街をみると、みんなまだスーツを着ているんですよ。普通に必要なものなんですよ。

—【松嶋】確かに、各店とも売り方は殆ど一緒ですよね。こんなに似て揃っている業界は意外とないかもしれませんね。

—【栗田】僕は百貨店さんの接客は一番嫌いだったんです。すぐにシャツをもってきて、試させてくれますが、客としてはそこまで望んでいないことの方が多いんですよね。すごく売ろうとする目的が伝わるから、だめになるんです。ブランドのファンになってもらうときは、商品の魅力だけではなく、人も大事なんだと思います。この人から買いたい、話を聞きたいってありますよね。本来アパレルもそういうものがあると思っています。今後はポップアップ的なイベントやS N S発信をして、来てもらった方とお話して、ファンになってもらいたいです。アパレル店舗も考え方ややり方次第ですね。

ファッションを楽しんで欲しい

—【松嶋】みんなが使えるものにしたいというお気持ちがあるのでしょうか?ある程度の数を販売したり、正当な評価を受けたいというお考えの根本になっていそうな気がします。

—【栗田】「Spectre」は、広めたかったですね。素材が面白いので、洋服にしたらすごくインパクトがあるんじゃないかと思いました。でも派手すぎると使わないだろうし、コストも高くなってしまいます。またネクタイはターゲットが絞られてしまう。老若男女に使ってもらうことを考えた結果、バッグに辿り着きました。若い子にはファッション的な要素があれば面白がってくれるし、年齢が上の方は安全が価値になる。タイミング的にもレジ袋が有料化開始の時期でもあったので。それもちょうどはまって本当に幅広い世代に買っていただきましたし、ほとんどエコバッグを持っていなかった男性のエコバッグ持参率に貢献できたと思います。

—【松嶋】ネクタイはまさにほぼ男性のアイテムですし、「Spectre」のエコバッグも男性に向けたメッセージが強いなと思いました。男性のおしゃれについて、思ひ入れがあるのでしょうか?

—【栗田】男性は女性よりも洋服が限られますよね。だから、その中でいかに楽しくできるかというところを考えています。スーツも紺やグレーと大体決まっているじゃないですか?遊べるのはネクタイくらいだと思うんです。そして、スーツをきている人とお話すると、ネクタイは絶対見えますよね。スーツを制服化しないで、それなりに楽しんでほしい想いはありますね。

スーツは採寸が合っていれば、生地はある程度のもので大丈夫だと思っています。オーダースーツも昔に比べれば、手頃に買うことができます。ただ、寸法が合ってくると、ネクタイが難しくなるんですよ。いろいろ考えちゃって。それを解消するのがサブスクリプションリプションサービスの狙いです。楽に、いろんな色を楽しめます。

—【松嶋】男性は無頓着の人が多いですから、選んでもらった方がいいときもありますよね。

—【栗田】そうですね。仕事もそうですけど、得意な人がいる領域は、あまり口を出さず、得意な人にまかせた方がいいですよね。口を出すとかえって、失敗することが多いですし、失敗するとみんなやる気がなくなっちゃう。1回やってもらって、だめだったらその時考えるくらいで良いんじゃないかな。

特に仕事はスピードが遅くなるじゃないですか。それが嫌なんですよね。会社員のときも、上司に確認すると全然進まないし、平気で1週間経っちゃう。そうすると僕も熱が冷めちゃいます。スピード良く、テンポ良くやるのが自分のスタンスですね。

挑戦の心構え

—【松嶋】ここまでは、独立からクラウドファンディングまで実績についてお聞きしました。その中で栗田さんはチャレンジがラフにできていると感じました。それができる背景や経験談のお話もお聞きできたらと思います。まずアパレルにひかれたのは、どんなことがきっかけだったのでしょうか?

—【栗田】洋服に興味をもったのは、学生の頃から面白いと思っていました。今はSNSで自己表現できますが、昔はS N Sがなかったので、みんなファッションで自己表現していました。みんな今よりも奇抜で尖ってましたね。専門学校はまさにそういう人がいっぱいいて。僕自身も赤毛のモヒカンでちょっと奇抜でしたが、そういう面白そうな人がいるところにいたかったんです。

—【松嶋】そのあとアパレルの中でもいろんな仕事をしたり、メッセンジャーやスポーツバーをやられたり、チャレンジするのは怖くなかったですか?

—【栗田】面白そうだという気持ちが勝っちゃいますね。会社をやめるときも、結婚して子供もいたので、みんなに心配されました。お義母さんにも報告をした時に、心配されましたが、「大丈夫です」と言い切りました。結局、自分次第だと思っているんです。できる、できないって。みんなやらない理由を探しているんだと思います。もしかしたら「できない、失敗しちゃうかもしれない」という不安は、僕にもあるんですよ。でも自分の力を出して、やりきって失敗したら、しょうがないですよね。でも、やらなかったら、ゼロじゃないですか?チャレンジするときは自分がちゃんと、やると決めていればやりきれます。

ルーティーン作業よりもチャレンジした方がずっと面白いと思うんです。ネクタイ屋はまさにそのルーティーンでした。毎年、季節毎に販売するものを選んで、作ることが決まっていました。僕は違うことをやっていたいんですよ。その方が絶対面白い。自分で考えて、決めて、チャレンジする。転職したときも、自分がまだ知らない世界の広がりに面白さを感じました。

—【松嶋】チャレンジというよりも、面白いからやるという感覚でしょうか?

—【栗田】確かに。自分の中で挑戦といった、気負う感覚はあまりないですね。面白そうだなと思ってやってみて、合わなかったらやめる。

—【松嶋】なんで面白いと、チャレンジできるのでしょうか?一般的には面白さよりも、お金のために働く人が多いと思います。そのほうが安定するから。でも栗田さんも、不安定ではないと思うんですよね。

—【栗田】サラリーマンは、毎月決まった給料が入って、楽だとは思います。僕もサラリーマンだった時は、毎年少しづつ給料も増えていました。でも今考えると、極限状態の方が面白いことができていると思います。サラリーマンの時は、周りを見ても、全然楽しくなさそうだったり、我慢している話を聞いて、嫌だと感じていました。お金だけのために働くのは嫌というか、僕にはできないですね。やりたくないことは、やりたくないです。

—【松嶋】お金のために働かなくても、お金が入ることはあると思うんです。それをみんなは栗田さんだからできるというかもしれないですけど、たぶん本当は誰でもできると思います。

—【栗田】失敗する可能性やリスクを、僕もある程度は考えますよ。でも、ずっと考えていると、踏ん切りつかなくなっっちゃうじゃないですか。僕の周りにも踏み出せない人がいます。そういう人は「家族がいるから辞められない」と言うんですけど、僕には言い訳にしか聞こえません。「大丈夫だよ。やれるよ」と言っていますけど、またすぐにやらない理由を探しちゃう。やったら楽しくなるとか、もっとお金が稼げるとか、不安要素よりも楽しい要素を考えた方がいいと思うんですよね。どちらかというと、みんなマイナス要素ばかりを考えている気がします。「こうなったらどうしよう?ああなったらどうしよう?」って。もっと面白くなればいいと考えられないのかな。安定していた方が楽なんですけど、やりたくないことをずっとやる方がきついと思うんですよね。前に進んでいる感じもしないし。

—【松嶋】人生には上り下りがあると思うんですよ。その上下運動の中で、みんなチャレンジしている。もし失敗しても、元に戻ればいいだけですし、元に戻れるはずなんですよね。

—【栗田】その感覚は、チャレンジしないと見えない世界ですよね。よかった時は引き続きやればいいですし。結果なんてやってみないと、わからないですよ。

失敗しても、後から笑い話にできる

—【松嶋】栗田さんは、たぶん失敗もポジティブにとらえているんだと思います。そういう風に考えられるようになったきっかけはありますか?

—【栗田】学生時代はひねくれたりもしましたよ。運動部だったんですが、ケガをしてしまって、試合に出られない可能性を感じた時はもう嫌だって思いました。でもその後に出られた試合もあって。その経験から、やり続けていれば報われると思ったのかもしれませんね。

今までのチャレンジが全て結果的に報われたかというと、そんなことはありません。沈むこともあります。でも失敗したからといって、引きずってもしょうがないというか。次のチャレンジで成功するって考えるしかないですよね。

—【松嶋】その中で次のクラウドファンディングには、2つの意味があると思っています。一つはプロダクトのアップグレード、もう一つは次のステップに行くということだと思います。

—【栗田】そうですね。またクラウドファンディングにチャレンジするのは、追い風がない時にやるとどうなるか見たいからかもしれません。1回目は、エコバッグの有料化タイミング

だったので、1年経った今、また違う結果を出したいですね。1回成功して、そのまま勝ち逃げするのも嫌だし。もし失敗しちゃったら、笑い話にしますね。時期って重要ですねって。それはその時に考えようかな。

—【松嶋】やはり失敗と感じていませんね。

—【栗田】いやいや、その時は落ち込みますよ。でも、あとでまた考えたらいいと思います。

—【松嶋】日本のアパレルで海外進出しているのは、ユニクロくらいですかね。

—【栗田】デザイナーズブランドでは、コム・デ・ギャルソンなど世界でもインパクトを残して、自分らのその筋も通しているので、格好いいなと思います。ユニクロはスタンダードなポジションを取っていて、すごいですよね。僕は商品の面白さや職人技をしっかり売っていくことでインパクトを与えて、世界に広げたいですね。何十年後に古着で出てきたらいいなと思ったりするんです。めちゃくちゃ光るバッグを見つけて、「これは何ですか?」「日本のブランドらしいんですよ」という会話がどこかで生まれたら面白いな。

—【松嶋】小規模ブランドが海外にチャレンジするきっかけになるといいですね。

—【栗田】クラウドファンディングはその点で使いやすいのかなと思っています。手数料は高いですが、広告的な役割が大きいですし、1つの実績になります。アパレルはものを作って売るというビジネスモデルですが、クラウドファンディングなら受注してから作ることもできるので無駄もなくなります。最近でも洋服の廃棄が問題になっていますよね。それだけ無駄にものを作っているので、受注生産は今後も広まりそうです。僕らみたいな小さいブランドでも支援を募れますし、僕らを見てチャレンジしようと思った人がいてくれたらいいな。

—【松嶋】次回のクラウドファンディングで、「Spectre」はどんなアップグレードを予定していますか?

—【栗田】細かい部分では色々あるんですけど。大きな変化だと、お客さんから出た要素というと、1回目はまず男性を意識して作ったんですよ。金具パーツにアウトドア用品で使われている素材を取り入れたりして。その金具が女性には堅かったようで、より軽いものを採用しました。あとは別売りの紐と組み合わせることで、肩がけ・斜めがけができるように作ろうと思っています。

—【松嶋】アップグレード版も楽しみですね。最後に読者の方へメッセージをお願いします。

—【栗田】皆さんも頑張って、面白がって、チャレンジしてくれたらいいですね。僕みたいに資本がなくてもやれることは、今いっぱいあります。やり方はいくらでもある。まずはやってみる。できない理由を探していたことに心当たりがある方は、それを一度やめて、なにかしらやれることを考えて、やってみるのがいいのかなと思いますね。