「人と社会に貢献したい」。Gizumo・井上崇が半リタイア生活を通して気づいた自分自身のバリュー

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氏名 井上崇
肩書 株式会社Gizumo 代表取締役社長
大学卒業後、個人投資家として活動。独立系ヘッジファンドを設立後、株式やFXなどをディーリング業務を展開。ファクタリングやベンチャーキャピタリストとしてベンチャー企業に対する投資活動を開始し、スタートアップの企業を中心にハンズオン形態で経営資源も提供するスタイルを理念に投資。2015年に株式会社Gizumo設立、同代表取締役社長に就任。

「人の未来を創る。」をミッションに、教育事業やDXコンサルティング事業など、幅広い事業を展開している株式会社Gizumo 。代表取締役社長の井上崇氏は、人と社会への貢献を重視しており、「人と社会の役に立たない会社は100年残らない」と語る。かつては投資会社でお金を稼ぐために仕事をしていたという同氏がそう思うようになったのは、友人たちのおかげなのだそう。

今回は、井上氏の過去からGizumoを創業するまでの経緯と、同社の今後の展開についてお伺いした。

新卒入社の会社を半年で退職し、投資会社を設立

—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】簡単に自己紹介をお願いできますか。

—【話し手:井上 崇氏、以下:井上】株式会社Gizumoの創業者であり、代表取締役社長の井上です。よろしくお願いします。弊社は2015年5月に創業していて、2023年で9期目を迎えました。

—主な事業は、エンジニアのプログラミング教育事業やITエンジニアの派遣です。そのほか、IT関連に課題のあるクライアントを対象としたコンサルティングサービスなども行っていますね。

—【松嶋】井上さんはもともとIT業界で働かれていたのですか?

—【井上】いいえ。もともとは投資会社をしていて、デリバティブの運用や、ベンチャー企業やスタートアップに出資しながら、事業をスケールさせるような仕事をしていました。その中で感じた課題を解決するために、Gizumoを設立したという流れですね。

—【松嶋】Gizumoの前には投資会社をされていたのですね。学生時代から起業を目指されていたのでしょうか?

—井上】こちらも答えは「No」です。ずっと野球をやっていて、体育教師になるために日体大に通っていたのですが、教育実習に行った時に「何か違うな」と思ってしまって。想像よりも大変な仕事なんだなと思いましたし、自分に教師は向いていないと気づいたんです。

—【松嶋】それでは大学卒業後はどうされていたのですか?

—【井上】一般企業に入社しました。社長をしている知人と一緒に麻雀をしている時に「まだ就活していないならうちに来るか?」と誘っていただいたんです。それで、社長秘書として仕事をし始めたのですが、通勤時の満員電車が苦痛で仕方なくて、半年ほどで退職しました(笑)。

—【松嶋】そうだったのですね。そのあとは何をされていたのですか?

—【井上】大学に通っている時から株式トレードをしていて、わりと稼ぎがあったので、退職した後はトレードとバイトをしながら生活していましたね。ある程度トレードで稼げるようになった時に、「これで食べていこう」と思い立ち、投資会社を立ち上げました。

体調不良で半リタイア生活を送るも「誰かのために働きたい」の思いで帰国

—【松嶋】起業する前は不安などなかったですか?

—【井上】特にはなかったです。むしろ、雇われるというのは自分の性に合っていないのだろうなと思います。父も祖父も自営業でしたし、自分たちで仕事をしている人の姿をみて育ったからか、自分がサラリーマンとしてスーツを着て働くというのがあまりしっくり来ていなくて。

—【松嶋】なるほど。投資会社ではどのようなことをされていたのですか?

—【井上】投資会社では、資産家からお金を集めてファンドを作って資金調達をして、株やFX、日経の先物取引などで運用して回すということをしていました。リーマン・ショックや東日本大震災といった株価が動く局面でリターンを出していたので、結構稼ぎはありましたね。ただ、当時は企業を育てるようなことは全くしておらず、トレードをして利益を上げていただけで。社会貢献などの意識はなくて、お金儲けが目的になっていましたね。

—【松嶋】かなり忙しくされていたのでは?

—【井上】そうですね。昼夜問わずに仕事ばかりしているような日々を過ごしていましたし、お陰様で、業績はとても順調に成長していましたね。

ただ、そんな日が続いたことで気がつかないうちに大きな負担がかかっていたようで、精神疾患を発症してしまって……。これでは働き続けられないということで、シンガポールと日本を往復しながら半ばリタイアしたような生活を送っていた時期があるんです。

—【松嶋】そうだったのですね。

—【井上】ええ。シンガポールでは特に何かをするわけでもなく。たまに遊びに来てくれる日本の友人たちと話すのが楽しみでした。

友人たちの多くは大学時代からの付き合いで、日体大出身というと、周囲は体育教師や警察官、消防士などの職についている人が多いんです。生徒や市民、周囲のために日夜働いている彼らの話を聞くことで、誰かのために働くことの尊さをしみじみと感じるようになりました。

—【松嶋】周囲の人の話はいい刺激になりますよね。

—【井上】とてもいい刺激でしたね。金銭的なことだけに目を向けると、投資会社をしていた私の方が稼ぎはありました。しかし、それが社会のためになっていたわけではないんですよね。そもそも、誰かの役に立ちたくてやっていた仕事ではなかったですから。

彼らの話を聞くうちに、「自分も誰かのために働きたい」と思うようになり、帰国して仕事を再スタートさせました。

スタートアップ支援で感じた課題。エンジニアを増やすためGizumoを創業

—【松嶋】帰国後は、どのような仕事をされていたのですか?

—【井上】投資会社の投資対象を一部変更して、企業への投資を始めました。実業をやっている企業のコンサルタントをする機会も増えたため、自分たちでも実業をやろうと考えて、まつ毛パーマの専門店も立ち上げました。そちらは現在8店舗ほどありますね。

また、社会的意義がある事業をやりたいなと思っていたので、2014年からは就労移行支援事業を行う会社も設立しました。具体的には、私自身が精神疾患を患っていた経験を生かして、同じように精神疾患を抱える方の社会復帰をサポートするような事業です。5事業所まで広げたところで、こちらは売却しました。

—【松嶋】さまざまな事業に挑戦されていたんですね。Gizumoはどういった経緯で起業されたのですか?

—【井上】Gizumoに関しては、投資会社でスタートアップ企業のサポートをしている中で、エンジニアの採用に課題を感じたことをきっかけに設立しました。

スタートアップは優秀なエンジニアを欲しているのですが、そういった方はすでに充分な報酬を得ながら働いているため、転職する必要がありません。資金に余裕のない企業が優秀なエンジニアを採用するのは、非常にハードルが高いことなんです。雇い続けるためには相応の資金が必要ですし、開発環境を整えるのにもお金がかかりますからね。

—また、プログラミング教育は海外と比べて遅れをとっていますし、一部の人しかプログラミングをしない状況であるにも関わらず、実務経験がなければ採用もされない。結果として、需要に対してエンジニアの数が圧倒的に足りていなかったんです。そういった課題を解決するために、自分たちで優秀なエンジニアを育てようと考えました。

—【松嶋】市場に足りないエンジニアをどうやって増やしていくか、を考えて起業されたのですね。

—【井上】はい。例えば製造業などは教育のシステムが確立されていて、現場のエンジニアがしっかり育っていたからこそ、日本はものづくりの国として経済大国になっていきました。しかし、ITに関しては教育のシステムが確立されていません。サービスのリリースやアップデートにお金と人材を投資している状態で、教育に関しては手付かずの状態が続いています。

研修プログラムを用意している企業もありますが、それによってどこにでも通用する人材を育成できているかというと、必ずしもそうであるとは言い切れません。また、最近はプログラミングスクールなども多く出てきていますが、その学費を工面するのが難しい方もいます。私たちは、そういった方達の受け皿として教育事業を行っていますし、プログラミング教育ではお金をいただいていません。

—【松嶋】教育事業で、教育についてのお金をいただかないというのは、思い切った考えですよね。

—【井上】そうですね。私は「人と社会の役に立たない会社は100年残らない」と思っています。お金儲けを目的に投資会社を経営していた時は、ビジョンや理念などは必要ないと思っていたのですが、それは違うなと。人の役に立ったり、社会課題を解決したりするようなビジネスを通して利益を上げられる会社でないといけない。現在はそう思えるようになりました。

—【松嶋】お金儲けではなく、「社会貢献」が一番の目的になっていると。とはいえ、教育に関するお金が発生しない状態で、どのようにして事業を成り立たせることができたのでしょうか?

—【井上】教育事業の研修生たちを、まずはGizumoの社員にして、派遣で仕事をしてもらうという形にしたんです。携帯ショップや家電量販店、コールセンターなどで、自分の給料を稼いでもらう。で、従業員としての雇用契約がある上で自社の社員に教育をすると、助成金が出るんですよ。その資金を使って教育コストを捻出し、学習するスタイルにしていました。

—【松嶋】なるほど。学校とは違って自分のやる気がないとなかなかスキルは上達しないかもしれないけれど、収入があるから学習中も生活に困ることはない。

—【井上】はい。本人の努力次第で、1年ほどでエンジニアになれるモデルです。1年経たずに諦めてしまうケースもありますが、頑張れる方は必ずエンジニアになれます。

事業を始めたばかりの頃は「労働力の搾取だ」と言われてSNSなどで炎上したこともありますね(笑)プログラミング教育という名目で、教育はせずに人材不足の業種に人材を流しているだけだ、と。

ただ、教育の質には当初からこだわっていましたし、実際の開発現場で一番使われている価値の高い言語を教育することに注力をしていたおかげか、クライアントからも現場からもクレームは少ないんですよ。

「素人の素人による革命」を標榜し、人と社会に貢献できる事業を展開

—【松嶋】エンジニアの教育以外にはどのようなことをされているのですか?

—【井上】エンジニアとして育った方たちを企業に派遣したり、企業のIT環境を整えるサポートをしたりしているほか、受託開発も行っています。

—【松嶋】さまざまな事業をされているんですね。

—【井上】ええ。特にIT環境を整えるサポートサービスである「クラウドSE」は需要が大きいですね。 よくある例でいうと、中途半端にITシステムを導入したことによって、工数が増えてしまっているケースです。昔からのやり方に慣れている方の声が大きいと、その方が担当している範囲は紙のままで進めて、若い社員たち向けにITシステムを導入する。そうすると、システムと紙の両方で作業をしなくてはいけなくなって、反対に工数が増えてしまうんですよ。もしくはシステムの使い方が難しくて、使い方の指導に時間がかかりすぎてしまうとか。

そういった問題を解決するために専任の方を雇おうとすると、月額で40~50万円ほどかかってしまいますし、問題が解決したからといって解雇することはできません。しかし、私たちのサービスなら自社のリソースを活用することなく、10万円ほどで解決することができます。雇用関係になるわけではないですし、問題が解決すれば契約を解除していただくことも可能です。

—【松嶋】まさに、痒い所に手が届くサービスですね。

—【井上】ありがとうございます。もともと中小企業向けにリリースしたサービスなんですが、意外と大企業からのご依頼が多いんですよ。また、クラウドSEは月額課金のサービスなのですが、合わせて人材派遣を希望されることが多いのも特徴ですね。

—【松嶋】なぜそのようなサービスをスタートされたのですか?

—【井上】離職の課題があったからですね。派遣会社共通の課題だと思うのですが、自社で働くわけではないので、どうしても帰属意識が薄いところがあるんですよ。そうすると、派遣先の企業に転職したいと思う方も出てくるわけです。

そこで、自社内でもサービスを作って、一緒に育ってきた方たちが社内で働く場所を用意しないとダメだろうと考えるようになりました。その結果、受託開発やクラウドSEのような事業が誕生していったんです。

—【松嶋】なるほど。今後も何か別の事業を計画されていたりするのですか。

—【井上】長期的な計画でいうと、私たちは30年ほどのロードマップを敷いていて、ミッションとしても定義しているのですが、その中で三つのフェーズがあると考えています。

第1のフェーズでは、1人でも多くのエンジニア、クリエイターを輩出することを考えています。第2フェーズでは、新たな事業を創出する。Gizumoで育った方たちが社会課題を解決するような、新たな事業をどんどん作っていけるようにするのが理想ですね。

10人でやっていた仕事を3人でできるようにしたり、非効率な業務をシステムで効率化したり、労働人口が減少している中で、少ない人数でも大きな経済を生み出せるようにしていかなくてはいけないというのは、国全体の課題でもあると思います。そういった課題を解決するためにも、エンジニア人材を派遣したり、プロダクトを開発したりすることで貢献していきたいですね。

—【松嶋】やはり社会課題の解決、貢献というところが軸にあるのですね。

—【井上】そうですね。第3フェーズでは、AIやシステムなどが浸透して人々が本意でない労働から解放された社会を想定して、エンターテイメントにも挑戦したいなと。デジタル空間を拡張し、誰もが気軽に楽しめるようなサービスを開発したいなと考えています。

私はこれまで、大きい資金調達や投資などをすることで、優秀なエンジニアと優秀なマーケターと優秀なセールスを集め、良いプロダクトを早くリリースして、より高くスケールしてIPOさせる、もしくはバイアウトするというところを価値としていました。ただ、Gizumoで同じことをしても面白くないですよね。「素人の素人による革命」を標榜しつつ、未経験者をたくさん集めて、第2、第3フェーズの目標を実現したいなと考えています。

また、現在は小学校、中学校、高校でプログラミング教育が始まっていますよね。それにより、エンジニアを目指すハードルは下がるでしょう。私たちが教育事業で救うのは、谷間の世代と言われる2023年現在で高校3年生の子たちまでだと思います。その世代までカバーできたら、教育事業はピボットして、別の形で社会貢献できる事業に挑戦したいですね

第2フェーズに向けて、進み続けるGizumo

—【松嶋】今後についてお伺いしましたが、直近で何か考えられていることはありますか?

—【井上】10期目からは、先ほどお話しした第2フェーズに入ってくると思っていて、自社のプロダクトをどんどん世の中に出していきたいなと考えています。

今は新サービスとして、CTOの坂田を中心にCMSを開発しているところですね。来季はそのリリースを控えています。また、自社サービスの拡充として、教育事業をtoBで販売するようなサービス展開も考えていますね。

—【松嶋】新しい事業を作っていくフェーズに突入すると。

—【井上】そうですね。何をやっている会社なのかわからなくなるという懸念もあるのですが、Gizumoで育ったエンジニアが活躍できる場所を作るのが一番重要だと考えています。

また、夏頃から飲食店も手がけている中で、この業界ならではの課題も見えてきました。ゆくゆくは飲食店向けのDXツール開発も進めたいですね。

—【松嶋】Gizumoの今後が楽しみです。最後に、読者へのメッセージをお願いします。

—【井上】私は「人と社会にどれだけ貢献できるか」というのを、重視して働いています。仕事って、人生の3分の1以上を占めるじゃないですか。人生の多くの時間を費やすものなのに、「お金を稼ぐ手段でしかない」「収入のための仕事」という考えになってしまうのはもったいないと思うんです。

私自身も過去には「仕事はお金を稼ぐ手段」と位置付けていましたが、考え方が変わってからは、仕事に対するモチベーションが変わりました。そのおかげで見えてきたものもありますし、人と社会に貢献することを念頭に置いているからこそ、他者から何かを言われてもブレずに事業を広く展開してこれたのだと思います。

それを踏まえて、読者の方にメッセージをするとしたら、まずは自分のやりたいことを見つけて欲しいという一言に尽きます。就職活動や転職活動の際に「給料」「労働環境」「福利厚生」などから会社を選ぶのも一つの手だと思いますが、それよりも「自分がやりたいことを達成できるか」「自分のバリューを発揮できる環境なのか」という視点を重視する方が、やりがいのある仕事ができるはず。心の中でくすぶっているものがあるのなら、自分のやりたいことはなんなのか、今一度考えてみてはいかがでしょうか。

また、DX化に興味のある経営者の方や、エンジニアへの転職を考えている方がいらっしゃれば、ぜひ一度お話しさせていただけますと幸いです。

Company
企業 株式会社Gizumo
所在 東京都渋谷区渋谷3丁目11-11 IVYイーストビル9階
業種 Web制作
システム受託開発
DX支援事業
人材派遣サービス
システムエンジニアリングサービス事業
URL https://careers.gizumo-inc.jp/



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