自由を掴みたいなら「脈拍をあげろ」。FiNC退任、組織崩壊…数々の苦難を乗り越えてきたWEIN・溝口勇児の生き方に迫る

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Profile
プロフィール
氏名 溝口勇児
会社名 株式会社 WEIN Group
略歴 高校在学中からトレーナーとして活動。トップアスリート及び著名人のカラダ作りに携わり、2012年にFiNC Technologiesを設立し、代表取締役社長CEOに就任。総額150億円超の資金調達後、2020年3月末に退任。2020年4月に現在のWEINGROUPを設立。2021年に株式会社BACKSTAGEを創業、2022年に国内NO1ホログラムディスプレイを展開する3DPhantom株式会社CEO及び『1分間最強を決める。』をコンセプトとした格闘技イベントBreakingDown株式会社COOに就任。WIRED INNOVATION AWARD2018イノヴェイター20人、若手社長が選ぶベスト社長に選出。
Interviewer
松嶋活智
松嶋活智

2020年5月に設立し、これまで数多くの起業家を支援してきた株式会社 WEIN Group。代表を務めるのは、溝口勇児氏だ。同氏は、2020年3月まではヘルスケアアプリ「FiNC」を提供する株式会社 FiNC Technologiesの創業者として、会社を牽引する存在だった。

しかし、2019年末に代表の座を退任し、創業メンバーの当時CTOであった南野氏に引き継いだ。そして数ヶ月後の2020年5月には新会社として WEIN Groupを設立。メディアにも取り上げられ、周囲から期待を寄せられていたものの、9ヶ月後に当時の経営陣らによるクーデターが勃発。当初から注目を集めていただけに、スタートアップ業界に大きな衝撃が走った。

あれから2年がたった2022年現在、WEIN Groupや溝口氏はどうなっているのか?

本稿では、同氏の起業家ヒストリーを探るとともに、現在の会社の様子、今後の展望について伺った。

「天職だと思った」パーソナルトレーナーの仕事

—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】最初に自己紹介をお願いします。

—【話し手:溝口氏、以下:溝口】株式会社WEIN Group(以下:WEIN)、株式会社BACKSTAGEの代表を務めている溝口と申します。

前者はスタートアップの支援事業をしていて、後者ではアスリートやYouTuber、タレントや芸能プロダクション、スポーツ団体といった個人および組織のマーケティングやファイナンスをサポートしています。両社に通じるのは、どちらも挑戦している個人や企業のビジネスをサポートしている点ですね。

—【松嶋】2020年3月までは、ご自身が創業された株式会社 FiNC Technologies(以下: FiNC)の役員もされていたんですよね。元々パーソナルトレーナーだったとも聞きました。

—【溝口】ええ。高校在学中にパーソナルトレーナーをしていて、その経験を活かしてFiNCを立ち上げました。

—【松嶋】高校生がパーソナルトレーナーをするというのは、非常に珍しいのではないでしょうか。

—【溝口】僕には体育教師になるという夢がありました。ただ、実家が母子家庭で貧しく、夢を叶えるために必要な大学進学という選択肢が僕にはありませんでした。進路先として工場やスーパーでの就職も考えたのですが、たまたまパーソナルトレーナーをしている先輩と知り合うことができて。体を動かす、スポーツに携わるという意味では、夢だった体育教師に近いと思い、トレーナーという仕事に興味をもちました。その先輩が尽力してくださったことで、運よく働くことができたんです。もちろん、働く前には資格試験などの勉強もしましたよ。

—【松嶋】パーソナルトレーナーとしては、どのような仕事をしていたのですか?

—【溝口】先輩に紹介していただいたフィットネスクラブを拠点に活動していて、野球選手やバスケットボール選手などプロのアスリートや膝や腰が悪く健康にお悩みを抱える一般の方、深いコンプレックスを抱える方などをトレーナーとしてサポートしていました。「膝の調子が悪くて孫からの旅行の誘いも断らないといけない」と訴えていたお客さまから「最近は膝を気にして誘いを断ることがなくなったの!」と言っていただいた時には、これが天職なんだと思いました。困っている人をサポートできることに喜びを感じていたんです。

—【松嶋】大きなやりがいを感じていたのですね。

—【溝口】ええ。最初は優秀なトレーナーである先輩達に技術面で勝てるところが何一つ見つからなくて。その中で自分にできることは何かを必死になって考えた結果、せめて僕は「お客様の悩みやお客様の成果にお客様以上に本気になろう」と、それだけは絶対にこだわろうと決めました。そうしている内に、いつしか必要とされ、褒められ、お客様の役に立っている感覚を得られるようになっていったんです。人に感謝されることが少なかった僕にとって、お客様からの涙ながらの「ありがとう」の言葉には、心を大きく揺らされました。

そうしている内に転機が24歳の時に訪れました。お世話になっていたフィットネスジムが倒産の危機に陥ったんです。その時、代表から「この会社の経営を改善してほしい」とお願いされました。

当時は若かったですし、プレッシャーも大きかったです。しかし、経営に対する興味があったため、挑戦することにしました。結果として、支援者の存在や運が重なったこともあり、見事V字回復させることに成功したんですよ。

しかし、仕事が楽しくなる一方で、一定水準の所得の方向けのサービスであることに違和感も持ち始めていました。ある程度のお金がなければ、パーソナルトレーニングを受けることはできませんから。また、自分一人がどれだけがんばったとしても対面で指導できるお客様の数は限られています。そういった点にもモヤモヤとした思いを抱えていました。

その当時はスマートフォンが普及してきた時期でもあり、「スマホアプリであれば、老若男女に関係なくあらゆる人にサービスが届けられるのではないか」と思い、FiNCを立ち上げたんです。

会社の更なる成長のため、自ら立ち上げたFiNCの代表を退任

—【松嶋】2012年にFiNCを立ち上げて、最初の事業は完全個室のプライベートジムやコンサルだったんですよね。

—【溝口】ええ。はじめは自己資金と借入の社債で3000万円ほどお金を集めてサービスや商品をつくりました。1期、2期と最初から黒字を達成し順調に成長していたのですが、自己資金の範囲内でしか投資ができなかった。より成長するには外部からの資金調達が必須だとわかっていたものの、当時はエンジェル投資家やVCから資金を集めることは、当たり前ではありませんでした。

しかし、FiNCとして掲げているゴールから逆算すると、現状のままでは30年経っても到達点には辿り着けない。スピードを上げてレバレッジをかけていくには資金が必要だと判断し、資金調達に挑戦することにしたんです。僕がFiNCを退任するまでに、借入なども含めれば170億円ほど調達しました。

—【松嶋】それはすごいですね! FiNCは様々な事業に挑戦されていたイメージがあります。

—【溝口】いろいろしていましたね。その中の一つに、toBとtoCの両方に向けて、20万円ほどでダイエットをサポートするものもありました。良いサービスだとは思うのですが、僕はお金がなくて学校の行事にも参加できないような家庭で育ったため、そういった事業だけをやりたいわけではなかったんですよ。所得に関係なく誰もが無料で健康になれる世界を目指していましたし、起業したモチベーションもそういったところにありました。具体的には「Facebookのヘルスケア版」のようなサービスにしたいと考えていたんです。そのため、ある時方向転換をしました。

目標の歩数に達成すると全国の飲食店やマッサージ店でクーポンがもらえるキャンペーンや、人口知能(AI)がカロリーや栄養素、メニュー選び、食べ方に関するアドバイスを1人ひとり届ける機能を開発するなど、様々な施策や機能を展開しました。

—【松嶋】その効果なのか、FiNCはヘルスケアアプリの中でも、群を抜いてユーザー数が伸びていましたよね。1000万以上ダウンロードされているとか。

—【溝口】ユーザー数だけでいうと、伸びていました。

盲点だったのは、アプリはプラットフォームの意向によって、サービスの品質が左右される可能性があるということです。規約の変更を迫られたり、目標としていたサービスができなかったり……。

—【松嶋】外から見ていると、非常にうまくいっているように見えていました。

—【溝口】とんでもない! 山あり谷ありですよ(苦笑)。

アプリのダウンロード数やアクティブユーザー数は、伸び続けていたんですけどね。良いサービスを届けたいのに、自分のコントロールできないところから影響を受けて、機能開発を断念せざるを得ない状況が続いた時もありました。この時は辛かったですね。

また、会社や事業が成長して人数が増えるにつれて、組織のなかにも方向性のズレが生まれてしまいました。僕はC向けに特化して、より多くの人に使ってもらえるサービスをつくりたかったのですが、法人向けの手堅い事業にフォーカスしたい経営陣との間にズレが生じてきました。

ただ、僕は社会にとってあってもなくても誰も困らないような会社やサービスにはしたくありませんでした。UberやAirbnbのように、多くの先行投資が必要であっても、より多くの人に役立つインフラのようなサービスを届けたいと思っていたんです。

そのため、他の経営陣とはぶつかることもありました。役員や投資家など、ステークホルダーが増えていくごとに、身動きが取りづらくなったと感じていたのも事実です。僕の経営手腕が優れていて、全てが順調であればよかったのですが、決してそうではなかった。シンプルに、トップである僕の実力が不足していたのだと思います。

—【松嶋】関係者が多くなるごとに、様々な意見がでてくるでしょうしね。

—【溝口】関係者全員がwin-winになるようにしたいと考えていても、それは非常に難しい。ただ、「ヘルスケア」を広めたいという思いは、みんな同じでした。

CEOとして多くの資金や仲間を集めてきたわけですから、もはやFiNCという会社は公器であり、僕だけのものではありません。各ステークホルダーにとって最適解を目指すためには、自分はトップから退いた方がいいと判断し、CEOを退任することにしたのです。

—【松嶋】代表を降りると決めた時は、どのような気持ちだったのですか。

—【溝口】僕が最も大切にしていたのは、ビジョンである「一生に一度のかけがえのない人生をサポートする」です。会社を設立した当初から、「ビジョンを達成するためなら、自分がトップであり続けることに固執はしない」と話し続けてきましたし、それは現社長の南野をはじめ、経営幹部にも日頃から伝えていました。

ただ、当時のことを正直にお話しすると、CEOを降りてから自分の中に“ぽっかり大きな穴が空いた感覚”といいますか……。この後の人生、どのように過ごしていくべきなのか、わからなくなった時もありました。

また、FiNCは現在、単月黒字化して順調に成長していますが、僕が退任した後にコロナの感染拡大による大きな戦略転換をしていて、全てのリアル店舗の閉鎖をはじめ、一緒に泥水をすすってくれた社員を含めた大規模な経費の圧縮を断行していました。僕にはできない決断が多く、残された経営陣には大きな負担をかけさせてしまったという申し訳ない気持ちもありました。

突然の退任要求。WEINの組織崩壊事件から得た学び

—【松嶋】FiNCから完全に手をひいたのは、CEOを退任してから4ヶ月後だとお伺いしました。それは何がきっかけだったのですか?

—【溝口】不完全燃焼でモヤモヤした気持ちが抑えられなかったこと、何より次に登るべき山を見つけたからです。それがWEINなんです。

WEINは、ウェルビーイング(Well-being)とリンク(Link)を掛け合わせた造語です。ウェルビーイングは「幸福」と訳されることも多い言葉ですね。

僕は、ウェルビーイングとは、孤独や退屈がない状態を意味していると思うんです。20世紀の課題が戦争、貧困、病気だとするなら、21世紀は孤独、退屈、不安だろうと。健康を失うと、人生に大きな不安がつきまとう可能性もあるでしょう。とはいえ、身体が健康であれば幸せなのかというと、決してそんなことはない。

どうすればいいのか考えた時に、「FiNCが人々の健康をサポートする会社なら、WEINは孤独や不安や退屈を解消するための会社があればいいのではないか」と思ったんです。今も筆頭株主ではありますが経営はFiNCはメンバーに委ねることにして、自分は新しいことをしようと。そう思ったタイミングでFiNCからは手を引きました。現FiNCのCEOの南野は、もともと僕の一番の右腕だったこともあり、彼に気を遣わせたくもなかったのもありますね。

—【松嶋】そう思えるようになったきっかけはなんだったのでしょう?

—【溝口】FiNCのCEOを退任したあと、仕事漬けの日々が終わって時間に余裕ができたため、多くの人と会う機会がありました。その中で「次は何をするの?」と聞かれることが多く、自分の頭の中が自然と整理されていったというのもありますね。

思考が整理されていく中で、本田圭佑氏から誘っていただいて、WEINを立ち上げることになったのです。

—【松嶋】当初考えていた事業は、現在と違うものだったのでしょうか?

—【溝口】大きくは変わりません。社会課題に挑戦する起業家やスタートアップを応援する支援プラットフォームをつくり、自らもそのプラットフォームを活用して事業をつくっていこうと考えていました。

事業は動かせるお金と人が大きくなれば、様々なものを同時進行で始められます。僕は、WEINを通して「動かせるお金と仲間」を最大化することで、起業家やスタートアップを支援したい、自身も大きな挑戦をしたいと考えていたんです。その思いは現在も同じですね。

—【松嶋】熱い思いを持って始められて、9ヶ月後に元経営陣から退任を要求されるという事件が起きたんですよね。

—【溝口】ええ。最初に退任を要求された時は「ドッキリかな?」と思いました(苦笑)。ちょうどその事件が起きる1週間前が僕の誕生日で、元経営陣全員から動画のお祝いメッセージやアートをプレゼントしてもらっていて。さらにその10日前には、株主や経営陣全員で多くのメディアを呼んで大規模な記者会見もしていましたから。まさか1週間後にそんなことが起きるなんて思ってもみませんでした。

退任を要求されたときは、僕が会社のお金を横領したとか、僕のパワハラが原因でパニック障害になった人がいるとか……いろいろ言われましたね。ここを説明すると長くなるので割愛しますが、最終的にはそんなことはなかったと事実を知ってもらうことはできましたし、あの事件があったから今があるので、今では振り切れています。

—【松嶋】結果として溝口さん以外の経営陣が退任されていますね。事実が明らかになったあと、再び組むという方法はなかったのでしょうか?

—【溝口】僕も彼らも、一緒にやろうという考えは一切なかったですね。彼らは知識や経験も豊富です。尊敬できる部分も多々ありますが、事業にフルコミットしてくれるメンバーと働く方がいいなと。

事実、彼らとWEINを運営していた際は、ほとんど時間を使ってもらえていない中で、毎週の役員会で全員から承認を取る作業が大変だった面もありました。加えて、あの事件を通して、多忙である彼らとのコミュニケーションを取ることの難しさにも気づきました。

事件が起きた際、僕やCFO、経理の責任者に対して一度も事実確認されない中で横領を疑われ、悪意を持ってクーデターを起こした人の情報を、彼らは信じ込んでいました。結果として、当時の経営陣全員から全社員の前で、僕が糾弾されることになりました。

彼らとのコミュニケーションの総量を増やしていれば、あの問題は起きなかったでしょう。しかし、彼らのコミットメントや時間的にもそれは難しいですし、コミュニケーションを増やそうと思うと、社内調整や社内政治に思考を奪われてしまいます。そうなると、僕自身が事業に向き合う時間がどうしても減ってしまう。

スタートアップはどれだけ事業に真摯に向き合えるかどうかがポイントだと思います。彼らと僕では見ているものが違うのでしょう。僕はスタートアップの領域で事業を成長させる自信もありますし、彼らとは噛み合わない部分もありました。どちらが正しいかどうかということではなく、自分自身が何を信じて重要とするのかが大切だと考えるようになりました。

挑戦者を支援し、自らも挑戦する強い組織として、順調に成長中

—【松嶋】現在の体制になってから、会社の雰囲気は変わりましたか?

—【溝口】大きく変わりましたね。意思決定のスピードが非常に早くなりました。どれだけ崇高な戦略があったとしても、行動しないと机上の空論で終わってしまいます。現在は意思決定が早くできるようになったため、物事が驚くようなスピードで進んでいますね。

もちろん、的外れな戦略を立てていたら違った道にたどり着く可能性もある。しかし、僕は「最も多く考えた人が正しい」という持論を持っています。社内でプロジェクトや事業を任せるとなった際も、それらについて考える時間が一番多い人にお願いするようにしていて。人が考える以上、間違いがゼロになることはありません。しかし、最も多く考えている人が責任を持つことで成功率がグンと上がるんです。

—【松嶋】スタートアップはスピードと戦略が重要ですものね。

—【溝口】そうですね。僕は自分が関わっている物事に関しては誰よりも考えている自負がありますし、何かあったら責任を取れます。

ただ、挑戦を好まない人の意見を聞きながら意思決定をしていると、サイドブレーキを引いてしまう瞬間があるんですよね。「本当にこれでいいのか?」「自分は違うと思う」と。そうすると、スタートアップの初期フェーズでまだまだリスクを取れる段階にいるにも関わらず、社内調整に大きな時間を取られてしまう。そして事業の成長が鈍くなってしまうんです。

—【松嶋】元経営陣と再度一緒に組もうと思わなかった理由には、そういった部分も含まれているのでしょうか。

—【溝口】ええ。現在は挑戦や失敗を必要以上に避ける人がおらず、失敗したとしても全て自分のせいであり、言い訳ができない状態です。その上で事業が順調に成長してきているので、自信にも繋がっていますね。具体的にいうと、現在はグループ全体で直近四半期の営業利益が約1億円ほどに成長しています。あの事件以降は自己資金だけで経営していますが、それでも上場できる水準の業績や成長率になっています。

あれから2年経たずに急成長できた理由は、あの事件のお陰で残ったメンバーが奮起してくれたり、哀れに思って会社ごと参画してくれた仲間の存在が大きいですね(笑)。そういったメンバーが僕のことを信じてくれているのも大きいです。僕に期待をしていて、信頼してくれている。その信頼を絶対に裏切るわけにはいきません。体制が変わってから、時間の使い方やリソースの配分も工夫して、より事業のことを考えられるようになり良いサイクルができていますね。

—【松嶋】溝口さんの想いがメンバーにも伝わっているからこそ、成長しているのだろうと感じました。今後、メンバーが増えるとしたら、どのような方がいいと思いますか?

—【溝口】抽象的ではありますが、「WEINのビジョンを達成してくれる人」ですね。もっというと、ロイヤリティを高く持っている人がいいです。

ここでいうロイヤリティとは、「チームやビジョンのために自分が損を取れる」かどうか。例えば、僕は会社やチームのためであれば、自分が非難されたり、損をしたりしたとしても受け入れられます。それは誰でもできることではない。誰だって自分が一番可愛いですしね。しかし、会社のビジョンに対してロイヤリティが高い人、共感する人が揃っている組織は、それができます。そういった組織はとても強くなると思うんですよ。

*WEINのビジョン:地球と人々のWell-Beingな未来を創る。

—【松嶋】挑戦を受け入れたり、リスクを取れる人がいいということですね。

—【溝口】成功・成長するには挑戦を続けなくてはいけません。挑戦にリスクは付き物ですよね。リスクを享受できない人は挑戦できない。例えば、年齢を重ねて過去の実績や肩書きで生きていたりする人は、今まで積み上げたものを失うリスクを恐れて挑戦ができない傾向にあります。

ただ、ビジョンを達成するためにロイヤリティが高い人であれば、リスクを果敢に受け入れられますし、有事に見舞われても前向きに乗り越えていけると思います。

僕は一連の出来事を通して大きな打撃を受けました。本当に落ち込みましたし、沈みかけたこともあります。しかし、沈めばしずむほど熱心に応援してくださる人が現れて、それに伴って自分自身の熱量も湧き上がってきたんです。

だから最強の能力は諦めないことだと実感できました。あの経験を糧にしてここまでやってきた自信があります。もちろん、僕だけの功績ではありません。再建に至るまで、多くの方が協力してくださいました。

—【松嶋】WEINの事業に共感する人がそれだけ多かったのでしょうね。

—【溝口】会社としては本当に面白いフェーズで、いろんな挑戦ができるようになってきました。外ではまだ発信できないことも多いのですが、本当に楽しいことしかないですし、自己資金の範囲で僕たちほど急成長しているスタートアップはないんじゃないかと思えるくらい、今、爆伸びしています。なので興味のある方は、ぜひ採用応募していただけると嬉しいです!僕も社内のカルチャーも厳しいですが、会社の成長も個人の成長も実感できると思います。

ウェルビーイングを目指して、脈拍をあげる挑戦を

—【松嶋】今後、溝口さんが挑戦したいことを教えてください。

—【溝口】僕は「自由になりたい」と思っています。休みたい時に休むなどといった小さな自由ではなく、助けたい人を助けたいし、守りたい人を守りたい。応援したいと思った人を応援したいように応援できる。そういったことができる自由ですね。例えば、社会課題のために挑戦して頑張っている人たちを、全力でサポートしたいと考えています。それはWEINをつくった時からやりたかったことであり、現在は目標に近づいている実感がありますね。

—【松嶋】なるほど。自分の信念を貫き通す自由を手に入れたいということですね。

—【溝口】以前、コロナ禍でマスクが出回らなくなり、医療機関に務める方から「なんとかしてほしい。医療崩壊が起きはじめている」と言われたことがありました。クラウドファンディングで支援を募って、結果200万枚ほどのマスクを集めたことがあるんです。おそらく、いまだ破られていない日本記録なのですが、1日のクラファンで約1億5000万円を集めたんですよね。多くの人を巻き込んで、社会問題の解決に貢献することができた時は嬉しかったですね。同時に「自分は自由なんだ」と思えました。

上場企業の代表をしている友人からは、僕の動きを見て「自由で羨ましい」とも言われましたね。会社の代表をしていると株主の価値を最大化することに時間を取られるため、自由に活動することは難しいですから。おっしゃるように、僕の理想の人生は、やっぱり自分の信念を貫き通せる人生なんです。

—【松嶋】解決したい問題が見えた時に、自由に動ける自分でありたいと。

—【溝口】ええ。友人たちの言葉を聞いて、僕が目指すべきところは“上場企業の社長”ではないと確信しました。僕ならではのルートで大きな力をつけたいと考えています。僕は自分や自分の仲間が理不尽な権力に傷つけられない強さを身につけたいんです。例えば、ワンピースには天竜人という傍若無人で、理不尽の極みのようなキャラクターが出てきます。ただ、誰も彼らには逆らえない。なぜなら、逆らうと自分はもちろんのこと、大切な仲間の命をも危険に晒すことになってしまうからです。だから多くの人が彼らの理不尽を、黙って歯を食いしばって見守ることしかできなくて。過激な表現を使えば、僕は「天竜人をいつでもぶん殴れる人生を生きたい」と思っています。

ただ、それを実現するためには、強さを身につけなければなりません。前述したように、動かせるお金や仲間をもっと増やす必要があります。そうでなければ、僕の信念のせいで大切な人に迷惑をかけてしまう。だから今後3年間は、資金と仲間集めにも注力していきたいです。これまでの人生で、信念を貫くには強さが必要だということを嫌というほど理解しました。必ず大きな強さを身につけて、僕は誰よりも自由になります。

—【松嶋】最後に読者に向けてメッセージをいただけますか。

—【溝口】僕は「人生は全ての選択の総和である」と言う言葉を大切にしています。これまでの人生の中で下してきた大きな選択や、日々の中で無意識に下している小さな選択、それら一つひとつの積み重ねが、自分の未来を創ります。どこかに行こうと決める事も何かを学ぼうと決める事も誰かに会いに出かける事も、こだわるべきところで妥協してしまうことも、勇気を振り絞れずに立ちすくんでしまうことも、努力をせずに惰性にまみれてしまうことも、全てが選択です。僕の場合は、これまで積み上げてきた全ての選択によって「自由」が作られています。だから僕は、いつまでも、年を重ねた時も、この言葉を好きでいられる人生でありたいと思っています。

その中で、仕事は“究極の自由を掴むためにやるもの”だと思っています。究極の自由とは「孤独や退屈や不安がない、ウェルビーイングwell-beingな状態」であるということです。それを掴むためには脈拍が上がる挑戦が必要です。脈拍が上がるようなものでなければ、それを挑戦とは言いません。人が老いるのは年齢を重ねたからではなく、自分の成長を見限ったり、諦めたりした時だと思います。それが悪いわけではないのですが、体力があるうちに老いてしまうのは、もったいない。

もし自分が老いてしまっていないか心配になったら、まずは脈拍をあげられているかどうか、自問自答してみてください。もしできていないのであれば、自分が脈拍をあげられる何かを探してみてはいかがでしょうか。

Company
会社情報
企業名 株式会社 WEIN Group
所在地 東京都港区海岸1丁目4-22 SNビル10階
URL https://wein.co.jp/