堅実なキャリアと起業は両立する?「地に足がついた起業」を実践し、日本ストックオプション市場を変革する起業家の実践的起業論

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氏名 茅原淳一
肩書 SOICO株式会社
代表取締役CEO
出生 1982年
略歴 1982年、栃木県生まれ。2005年に慶應義塾大学を卒業後、新日本有限責任監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)に入所。その後、クレディ・スイス証券株式会社を経て、2012年にKLab株式会社入社。経営企画室に配属され、資金調達や株式報酬型のインセンティブ制度の設計などの資本政策にかんする責任者として業務に従事。海外子会社の取締役などを歴任。2016年に、上場企業として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。2018年に、SOICO株式会社を創業し、代表取締役社長に就任。公認会計士。

起業といえば、「ハイリスク・ハイリターン」。
そう思っていませんか?確かに、最近では大学生や若いキャリアの時に起業し、最もビジネスキャリアを構築しやすいし20代前半を起業家として生きる若者が増えてきている、という印象があります。実際に世界的な起業家でもあるビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグなどもみな20代前半で起業家としてのキャリアを選択しています。

しかしながら、一方で起業が最も盛んな国であるアメリカであっても起業家の創業時の平均年齢は42歳であり、IPOなどの実際に成功に行きついた起業家の平均年齢は更に上がるというデータが存在しています。

つまり、起業というのは一か八かのギャンブルや、情熱やビジョンに突き動かされた英雄的行動の結果というわけではなく、堅実にキャリアを積んだビジネスマンが選択する合理的なキャリアパスとして、30代~40代のビジネスマンにとって存在しているのです。

今回ご紹介するSOICO株式会社の茅原 淳一さんはまさにそういった堅実なキャリアと起業を両立させるキャリアパスを構築しているビジネスマンのお一人。公認会計士としてのキャリアを数社に渡って培いながらも、30代後半で日本のスタートアップや大企業に新たなストックオプションの制度を導入する事業で急成長するベンチャーSOICOを創業しました。

今回はそんな茅原さんのキャリアやビジョンに焦点を当てたいと思います。

就職氷河期の危機感から選択した公認会計士

渡辺)はじめまして、茅原さん。茅原さんと僕はちょうど同世代で、大学当時は、就職氷河期の頃でしたよね。本日はまず茅原さんの大学時代のころのお話からお聞きしたいと思いますのでよろしくお願いします。

茅原)よろしくお願いします。今ちょうど37歳なので私もまさに就職氷河期だったんですよね。なので、安定した手に職を身に着けたい、と感じて大学在籍中に公認会計士の勉強を始めました。

渡辺)確かに、当時私の周りにも多かったです、公認会計士や司法試験目指す人。茅原さんは大学は慶應でしたっけ?

茅原)はい、そうです。そういう意味ではよくいるタイプの大学生だったと思います笑。サークルも普通に民族舞踊研究会と理論経済勉強会でしたし。

渡辺)結構固めのサークルですね笑。僕らの世代ですと、ちょうど藤田さんやホリエモンが注目され起業家ブームもあったかと思うのですが、当時はそういう起業に対して積極的な学生というわけではなく、どちらかというと安定志向の感じだったのですね。

茅原)はい、そうですね。両親とも材木屋と美容師で、商売をしていた人間なので、潜在的には商売人の素養はあったかと思うのですが、どちらかというと保守的な学生だったと思います。公認会計士になるために大学2年から資格学校に通って勉強ばっかりしていた感じです。在学中に試験には合格することができたので、最初の就職は監査法人でしたね。

渡辺)なるほど、では堅実なキャリアがその後も継続していった感じでした?

茅原)はいそうですね。基本的には堅実なキャリアのはずではあったんですが、実際には当初は想定していなかったこともいっぱいおきました。例えば、最初入った監査法人は業界再編のあおりを食らって、吸収合併されてしまってなくなってしまいました。 その後、転職してクレディスイス証券に移ったのですが、ここでもリーマンショックの波がきて、事業の大幅縮小みたいなこともありましたね。

会社吸収・リーマンショックと消え去った「安定」という概念

渡辺)たしかに、色々ありましたよね。そうなると、それまで考えていた「安定」という概念についても大分変わってきた感じだったんでしょうか?

茅原)まさにそうなんですよ。安定した手に職である公認会計士っていう資格をとっても、世の中の情勢によっては、会社自体がなくなったり、事業がなくなったりするわけなんです。そんな社会なのに、「安定」という不確かなもののために、何かを我慢してチャレンジしないのってもったいないなぁ、と思うようになりました。 そういうこともあり、次の転職はベンチャーにしたんですよ。景気という外部要因ではあったんですが、逆に社会情勢の影響で普通の会計士としてのキャリアより他のことももっとしていこうという気持ちになったのは逆にラッキーでした。

スタートアップへの転職は新たなキャリアの展望を広げてくれた

渡辺)次の転職先はどちらだったんですか?

茅原)2012年にKLabというモバイルゲーム事業のスタートアップに転職しました。スタートアップと言ってもすでに上場はしてるのでそれほど小さい会社では当時もなかったのですが。

渡辺)初めての事業会社はいかがでしたか?

茅原)監査法人や、証券会社ってどちらかというと固めの人が多いのですが、KLabにいた方っていい意味で適当な方が多くてそこにカルチャーショックを受けました。スピード感が求められる業界であったので多少間違っていてもスピード重視で正解を求めていくという風土がこれまでとは違うところでしたね。

渡辺)KLabも独立される方の多い会社ですよね?

茅原)はい、そうですね。それがやはり今のキャリアにも影響を与えていると思います。

渡辺)KLabではどういうお仕事をされいていたのですか?

茅原)経営企画のポジションで仕事をしていました。KLabはゲームの事業以外にも、ベンチャー投資や資金調達を積極的にしている会社なので、多岐にわたる業務を担当させてもらいました。当時は、ブラウザーゲームからスマホのネイティブゲームに移行時期でもあったので、そのための事業再編や資金調達なども担当しましたね。

いざ起業!最初は友人とスタートアップを起業しCFOへ

渡辺)KLabで数年勤務されたのちに、その後はいよいよご自身でスタートアップを経営されるようになったんですよね?

茅原)2016年に大学時代の友人が創業メンバーであった会社にCFOとしてジョインし、組織全体をマネジメントすることを初めて経験しました。事業は人間ドックのオンライン予約を可能なサイトのサービスです。事業としての特性は、リピート率が結構低いサービスであったので、毎月新規の集客のために数千万赤字を出している、といった状況でした。 そのために、VCからも調達はしていたのですが、毎月どんどんキャッシュが減っていく中で、キャッシュを管理する立場としては、いつ黒字化するかもわからない状況の中で毎月ハラハラ過ごしていましたね。

渡辺)それは結構つらいですね。どれくらいの期間携わっていたんですか?

茅原)大体1年くらいの間ですね。経験値という意味では最も多くのモノを得た時期ではあったのですが、一方で精神の消耗度も人生で一番高かった時期でしたね笑。

日本のストックオプション制度を変革するSOICOの創業へ

渡辺)こちらの事業のCFOを退任した後は、一度KLabに戻られたんですよね?

茅原)はい、そうですね。KLabに戻り元々やっていた経営企画の業務に加えて新規事業をするプロジェクトがあったので、その業務にも参加した感じです。そこで、事業企画をすすめていたのですが、KLabの方針で私が企画していた新規事業はKLabとしては進められないことになり、そのタイミングでKLabのCEOから新規事業するなら出資するよ、という話もいただき、自分がCEOとなって起業することにしました。

渡辺)事業内容はどういったものになりますか?

茅原)スタートアップ向けの資本政策コンサルティング事業、その中でもストックオプションの導入のコンサルティングサービスを主要な事業としています。

渡辺)日本のストックオプション制度の課題はなんでしょうか?

茅原)まず多くの未上場の企業ではストックオプションに対する知識がないんですよ。アメリカ等ではストックオプションに関する制度として新しいものがどんどんでていってるんですが、日本では税制適格ストックオプションくらいしか実際に使われているものがないんです。他の選択肢も最近だと有償ストックオプションや、信託型ストックオプションなども出てきているのですが、まだ実際に導入されている会社は限定的だと思います。

渡辺)なるほど。こうしたストックオプションの制度を活用できないことで、スタートアップにはどういう問題があるのでしょうか?

茅原)最終的にはやはり人材の採用力の低下と、採用後のモチベーションの維持が難しくなってきますね。よくある事例では、ストックオプションがなかなか付与されないまま、ずるずる時間が過ぎていったり、VCからの投資が大きく入ってバリュエーションがあがってしまって行使価格が高くなってしまって上場しても儲からない水準になってしまったりといったケースがあります。

渡辺)なるほど、とういうことはサービスのターゲットは、資金調達をして外部から幹部人材を集めだしてるシリーズAくらいのスタートアップということでしょうか?

茅原)はい、おっしゃるとおりです。やはり、優秀な幹部候補を採用したい、という企業にはニーズが高いようです。特に、信託を活用したストックオプションの提案をメインにしています。この信託型ストックオプションは2016年頃に本格的に始まった制度なのですが、当時KLabが上場会社として初めて実施しており、その担当をしていたので私が誰よりも知見がある領域だと思います。

こうしたストックオプションの制度設計のサービスはショットでのコンサルティングという形で提案しております。また、CFOがいない会社もいらっしゃるので、その場合はスポットでCFO業務を月額制で請け負う「シェアリングCFO」というサービスも提供しています。

渡辺)CFOを採用するタイミングって難しいですからね。

茅原)そうですね。実際にCFOを採用しようとしてもなかなかいい人材がいなかったり、逆にシリーズの早い段階だとフルタイムのCFOを採用しても仕事がそれほどなかったりといった問題があるので、サービスとして結構刺さっていますね。

スタータップのCFOは、財務だけではなく、人事や労務、その他様々なバックオフィス業務も含めてできる人が求められる傾向にありますが、このように全てのスキルがあるような方ってほとんどいないですからね。1人でこういうスキルを持ってる方はいないのですが、シェアリング型で様々なスキルをもった方を都度使っていけば、こういった問題は解決が可能です。

渡辺)確かに、シェアリング型なら色々な人材をその都度利用でいるので便利ですよね。実際にスタートアップにおいて求められているCFOの人材ってどういう方なのでしょうか?

茅原)まず第一には、資金調達が可能なCFOは圧倒的にニーズがありますね。ベストは資金を出してくれる投資家やベンチャーキャピタルとネットワークが強い方ですが、そうでなくても資本政策や事業計画を投資家向けに作ることができるというスキルはニーズがとても強いです。 第2には、上場準備の初期フェーズの対応が可能なことですね。上場には様々な内部統制の仕組みをつくったり、主幹事を選んだりといった業務が必要となりますが、こればかりは実際に上場業務を経験した人でないと落とし穴が多いので、円滑に進めていくことができません。上場準備をした経験がある人って、圧倒的に数が少ないので人材としての希少価値が高いです。 第3には、事業の立ち上げフェーズにおいて、ちゃんと出口戦略を作ることができる方ですね。IPOを目指すのか、M&Aで売却を狙うかによって事業に必要な資金や成長のさせ方が異なってくるので、こうした初動での方向性をちゃんと決めることができる方は今後必要性がましていくでしょうね。事業承継などでMBOなども増えていくため、こうした方が活躍するシーンは増えていくと思います。

ストックオプション以外の新規事業は?

渡辺)ストックオプションもシェアリングCFOも事業のニーズが強そうですし、順調に進んでそうですね。実際の事業の進捗はいかがですか?

茅原)実際に事業が軌道に乗り始めたのは2019年の頭くらいからなのですが、そこからクライアント数も順調に増えていっています。事業のニーズは確認できたので、これからはスケールにはいっていくタイミングです。

渡辺)御社が考える長期的なゴールや戦略はどのようなものですか?

茅原)今のコンサルティングサービスは、労働集約的な事業でもあるのでこのままでは急速な成長は難しいと考えています。元々、事業の方針としては、資本政策×ITを主軸に入れていこうと思っていたので、今後はITサービスを強化していきたいです。具体的には、社内のストックオプション管理業務を可能とするWEBサービスの開発を進めており、こちらをSaaS型サービスとして伸ばしていく予定です。

渡辺)そのサービスでは具体的にどのようなことができるのでしょうか?

茅原)例えば、ストックオプションの問題点としては、社員が受け取ったストックオプションが今何株であり、将来いくらになるのかがよくわからず、インセンティブにつながりにくい、という問題があります。例えば、現在のバリュエーションがくらで、仮に上場したらいくらくらい儲かるのか、という点がすぐにわかれば従業員側も上場時までは少なくとも頑張ろうっていうインセンティブになりますよね。こういった機能を充実させていく予定です。

渡辺)なるほど、こういったSaaSサービスのゴールとしてはどの程度の市場があると考えられてらっしゃいますか?

茅原)モデルとしているのはアメリカのCarta(カルタ)という未上場株式の管理サービスを提供するスタートアップです。こちらは直近でも17億ドルのバリュエーションを受けているユニコーン企業です。彼らのビジネスモデルを参考にしており、彼らはこうしたSaaSサービスを未上場企業だけでなく上場企業に対しても提供して大きな利益を上げています。実際に日本でも上場企業に対してインセンティブ設計や株式評価業務のニーズも高いため、ITサービスと連動するコンサルティングとして今後提供していきます。

渡辺)最近では、業務委託や、フリーランスが増えてきており、働き方も従来と比較して多様化してきていますが、ストックオプションの活用法もこれらに対応したものが増えていきますでしょうか?

複業時代のストックオプションのあり方とは?

茅原)はい、まさしくそういったフリーランスの活用というのは上場、未上場関わず大きなテーマとなっており、今後こうした層に対するストックオプション等の活用は注目を集めていくと思います。 例えば、Youtuber系の事業を行っている企業などは、有力なYoutuberには実際にストックオプションを渡したりしています。こういう社員ではないけど、囲い込んでおかないといけない相手に対してストックオプションを渡すというのは今後増加していくと思いますね。

渡辺)ストックオプションは行使の条件として、社員としての在籍が何年以上とか、行使時点で社員として在籍している必要があるとか、色々と制限がある場合が多いですが、このような外部のパートナーの場合どういったやり方が有効でしょうか?

茅原)例えば、有償ストックオプションは有効な手段です。有償ストックオプションは、発行時に受け取り手が対価を支払うことで受け取るストックオプションです。有償ストックオプションでは、先ほど仰っていただいたような様々な制限を付けることができ、それによって受け取った側のやる気や頑張りを引き出すことができます。Youtuberの例で言えば、例えば年間100万再生を超えたらストックオプションの行使ができるようになるといったような条件を付けて、Youtuberの方の動画制作のモチベーションをアップするというような仕組みを作ることができます。

渡辺)茅原さんが、こんなストックオプションの制度が日本でもあるとよいと考えるものはありますか?

茅原)そうですね。これは世界的な潮流ではあるのですが、スタートアップが上場するまでの期間が延びていっているんですよね。実際に、創業から10年たっても上場しないケースが増えていっていますが、ストックオプションの期限は大体10年に設定することが多いため、このように上場までの期間が延びてしまうと失効してしまうこともあります。そこで、アメリカで導入されているストックオプションの制度としては、資金調達のアップラウンドの際に、ストックオプション保有者が応募して、売却をすることができる制度などが取り入れられています。

渡辺)それは、様々なメリットがありそうですね。その他、茅原さんが注目するストックオプションの活用方法はありますか?

茅原)例えば、スターバックスは面白いですよ。こちらは、本国だけではなく全世界の店舗の従業員も含めて、株式を配っています。ストックオプションではなく、RSUという仕組みではありますが、このように店舗従業員まで含めて配っているのってかなり珍しい事例だと思います。また、UberやAirbnbも優良なホストやドライバーに対しても株式を付与したりもしているようですね。

渡辺)御社自身のストックオプション制度の特徴はありますか?

茅原)はい、うちでは社員ではなくてもインターンにも配っているんですよ。そのまま社員にならなくても、3年以内に戻ってきた場合には行使できるようにしています。やはり優秀な人材を囲っていくためにはストックオプションは有力なので。また、弊社の仕事は結構紹介で受注していることが多いのですが、有力な紹介者やパートナーなどにもストックオプションを渡していっています。
ストックオプションは、仲間作りのツールとして非常に有効だなと、私自身も実感していますね。

「起業」というキャリアを振り返ってみて

渡辺)現在、絶賛採用中だと思うのですが、どういう方だと御社のカルチャーにフィットしそうですか?

茅原)そうですねー。こういう財務系のビジネスだと、専門知識が重要って印象があると思うんですが、実際はそうでもないんですよね。どちらかというと、ゼロベースでも知識を自分から身につけていく学習意欲と知的好奇心が高い人が結果を出していますね。あと、スタートアップってやっぱり村社会的な部分があるので、そういうところに飛び込んでいけるマインドを持った方が良いと思います。絶賛採用中なので、我こそは!って方お待ちしております!

渡辺)最後にTHE KEYPERSONの読者に向けたメッセージをお願いします。

茅原)はい、人生を振り返ってみると、こういうキャリアを送りたいって考えていたことって、その場その場でどんどん変わっていくんですよね。ですので、若いころに考えていたことって、結局そのまま計画通りに進むことってほとんどなく。私自身の人生も結局安定のために公認会計士を選んだはずなのに、外部環境もあってあまり安定はしなかったので笑。

大事なのは、難易度が高くてもチャレンジできる環境に身を置いて経験値を積んでいっているほうが、結果としてうまくいくことが多いということです。会計士の中には保守的で、能力は高いのに実際に行動に移すことを躊躇する人が結構いるんですよね。でも、例え失敗したとしてもちゃんとした能力があるのであれば、絶対リカバリーできるんですよ。 自分も一度目の起業ではあまりうまくは行きませんでしたが、結果としてこれまでのキャリアの中でのご縁もあってリカバリーできているので。ですので、自分の中に確固とした実力さえあればチャレンジするのは全然怖くないと思います。

渡辺)確かにそうですね。本日はありがとうございました。

Company
企業 SOICO株式会社
所在 東京都港区麻布十番1丁目7-3
URL https://www.soico.jp/



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