女性起業家のロールモデルとして前進あるのみ。DINETTEの代表取締役・尾﨑美紀に学ぶ人生の歩き方

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氏名 尾﨑美紀
肩書 DINETTE株式会社 代表取締役CEO
略歴 名古屋出身。大学在学時に芸能活動を行い、美容に触れる機会が増え、自身も興味を持ち始める。就職活動で大手企業から内定を貰うが、自分のやりたいことのために起業を選択し2017年3月に大学卒業と共にDINETTE株式会社を設立。美容メディア「DINETTE」とコスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP(フィービービューティーアップ)」など複数ブランドを運営。2020年4月には「Forbes 30 under 30 Asia(Retail&Ecommerce部門)」に選出。
2代目バチェロレッテ。

2019年にローンチし、2年後には年商15億円に到達するなど、急成長しているD2Cコスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP」。まつ毛美容液からスタートし、現在はスキンケア製品や美容液マスカラなど、さまざまなプロダクトを発売している。

同ブランドを手がけているのは、大学在学中から女性起業家として活躍する尾﨑美紀氏だ。大学に進学するまではあまりメイクにこだわりもなかったという同氏が、なぜコスメブランドを立ち上げることになったのか? 本稿では、ブランド立ち上げの経緯や尾﨑氏のブランドへの思い、経営者としての考え方についてお伺いした。

チャレンジを通して、自分の“好き”に気がついた

—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】自己紹介をお願いします。

—【話し手:尾﨑美紀氏、以下:尾﨑】DINETTE株式会社の代表取締役をしている尾﨑美紀です。大学4年生だった2017年に美容メディア「DINETTE」を立ち上げて、在学中に起業しました。会社としては、7期目の真っ只中ですね。(※2023年10月時点)

—【松嶋】メディア事業だけではなく、コスメブランドも展開されているんですよね?

—【尾﨑】はい。「DINETTE」をエンゲージメントの高いメディアに育てることができたので、お客さまの声をもとに、コスメブランドを作りました。2019年に1個目となるブランド「PHOEBE BEAUTY UP」をローンチし、現在は複数のブランドを運営しています。

—【松嶋】ありがとうございます。ここからは、尾﨑さんがメディアを立ち上げて起業されるまでの道のりをお聞かせいただければと思います。中学、高校に通っている時は、医師になることを目指されていたそうですね。

—【尾﨑】そうなんです。小学生の時に観たドラマの影響で「医学部っていいな」と思ったんですよ。夢を叶えるために勉強をしていたのですが、ある経験から医学部への進学自体をやめることにして。次の夢は決まっていなかったのですが、なんとなく東京の大学に行くことだけを決めて、大学受験をしました。

—【松嶋】そうだったのですね。医学部を目指されていたということは、勉強はとてもハードだったのでは。

—【尾﨑】頑張っていましたね。小さい頃にたくさんの習い事をしていて、頑張る機会を親から与えてもらっていたんです。そのおかげで、何事も頑張って取り組む力が身についていたのだと思います。

大学に入学してからは「夢は見つからないけど、“何者か”になりたい」という思いがあり、モデルやお天気キャスターなど、さまざまなことにチャレンジしていました。たくさんのチャレンジを続ける中で、起業という選択肢に出会えたというイメージですね。

—【松嶋】就活はしていなかったのですか?

—【尾﨑】就活もしていたんですけど、内定先で働くイメージをした時にしっくりこなかったんですよ。それで、自分の好きなこととできることを掛け合わせてメディアを立ち上げて起業しました。

—【松嶋】美容メディアを立ち上げたきっかけについても教えてください。

—【尾﨑】モデルの仕事を通して、美容が好きなことに気がついたからです。大学に進学するまではメイクもあまりしていなかったのですが、仕事でプロのヘアメイクさんにヘアメイクをしていただくことで「こんなテクニックがあるんだ」「自分はこういうのが意外と似合うんだな」と、多くの発見がありました。

また、当時の美容業界はプロが作る雑誌などはあったものの、ハードルが少し高いというか。気軽に真似できるコンテンツは少なかったんです。それで、もっと気軽に真似ができる美容情報が載っているサービスを作ろうと思い「DINETTE」を立ち上げました。

女性の悩みに寄り添い誕生したコスメブランド

—【松嶋】「DINETTE」が順調に成長した後、コスメブランド「PHOEBE BEAUTY UP」をローンチされていますね。Webサービスを起点にリアルプロダクトに展開するのは珍しいように思うのですが、なぜそのような挑戦をされたのですか?

—【尾﨑】実は、一番最初はリアルプロダクトを作りたかったんですよ。ただ、学生が作った商品は誰も買わないだろうなとも思い、まずは美容のコミュニティとしてメディア事業からスタートしました。コミュニティを育てることができれば、ブランドをローンチした後の認知を獲得しやすく、興味を持ってくださる方も一定数いるだろうと思ったんです。

「PHOEBE BEAUTY UP」は、コミュニティがある程度出来上がった時点で、当初の目的であったリアルプロダクトの開発に挑戦して誕生したという形ですね。

—【松嶋】「PHOEBE BEAUTY UP」も順調に売り上げが伸びていると聞きますが、メディア運営で培った知見も生きているのでしょうか。

—【尾﨑】もちろんそれもありますが、コスメブランドがここまで成長したのは、タイミングと運の良さが関係しています。というのも「PHOEBE BEAUTY UP」で最初に出したのがまつげ美容液で、発売した当時は競合があまりいなかったんです。本当はリップなど手に取りやすい商品を作りたかったのですが、競合が多すぎますよね。人気の商品が多いものは勝ち目がないですし、ニッチな領域から責めることで、まずはブランドを覚えてもらおうと思いました。

その作戦に加えて、自社メディアで商品をアピールし、インフルエンサーにも協力いただいて、低単価でお客さまにアプローチできるスキームが作れたんです。

—【松嶋】なるほど。「PHOEBE BEAUTY UP」の詳細もお聞かせいただけますか。

—【尾﨑】一言で表すと、悩み解決型のプロダクトです。年齢を重ねるにつれて、自分のネガティブな面が目につきやすくなるというか。悩みが増えてきて、純粋に美容を楽しめなくなってしまう人も少なくないと思うんです。それは私自身が実感していることでもあり、周りの友人たちと話していても感じます。

「PHOEBE BEAUTY UP」は、そういった悩みを解決して、メイクをする前の素の状態の自分を好きになって欲しいという思いを込めて作りました。素の状態の自分を好きになることで、上に重ねていくメイクをより楽しんでいただけるといいなと思っています。

—【松嶋】美容に関する悩みというと、例えばどのようなものなのでしょう?

—【尾﨑】例えば、女性は産後などにホルモンバランスの変化や疲労によって、まつ毛が抜けやすくなると言われているんです。それって、アイメイクが好きな方にとっては非常にショックなことなんですよね。そういった悩みに寄り添いながら、モノづくりをしたいなと。私たちはメディアに寄せられたお客さまからの声をもとにプロダクトを作っていますし、一人ひとりの美容への思いや価値観を反映できるようなブランドでありたいと思っています。

世界観を伝えるため、念願だった実店舗もオープン

—【松嶋】「PHOEBE BEAUTY UP」は使用する際のテクニックが不要で、なおかつ手に取りやすい価格帯であることも特徴だと思います。それは、お客さまの声を大切にされているからこそのものなのでしょうね。

—【尾﨑】身近なものとして気軽に使える、というのはメディアの時代から一貫して意識していますね。知識がないと使えないような尖っているものは作っていません。

また、先ほどお話した通り、まずは素肌の状態を好きになってもらうことが一番重要だと考えています。だからこそ、最初はまつ毛美容液、その次にフェイスマスク、化粧水といった、素肌をより良くするものを販売しました。その後に、マスカラやグリッターといったコスメも展開しています。

—【松嶋】ブランドのコンセプトがしっかりしているというか、ブレずにモノづくりをされているのだなと思いました。

—【尾﨑】ありがとうございます。とはいえ、商品数はまだまだ足りていないので「ここからどんどん作っていこう!」という感じですね。2021年の11月には直営店をオープンしたので、そこで実際にプロダクトをご利用いただくこともできますし、タッチアップの機会をもっと増やしていきたいです。肌につけるものは、一度試してからでないと購入するのをためらう方もいらっしゃるでしょうから。「直営店にいくのは難しい」という方は、バラエティーショップやドラッグストアなど、お近くの取扱店舗のテスターで試してみていただきたいです。

—【松嶋】ありがとうございます。ちなみに、直営店のオープンは、ブランド設立当初から計画されていたのですか?

—【尾﨑】そうですね。「PHOEBE BEAUTY UP」は世界観にこだわっているので、実際にタッチアップしてもらうことで、よりブランドを好きになっていただけるだろうと思っていました。

それで、2020年12月に初めてポップアップを開催したところ、とても好評だったんです。お客さまが「PHOEBE BEAUTY UP」を使って喜んでくださる姿や寄せられた感想を見ていると、直営店を出したい思いが強くなって。ポップアップ後から準備をはじめて、約1年後の2021年の秋にオープンしました。

—【松嶋】直営店をオープンして、手応えはありましたか?

—【尾﨑】はい。オープンしたばかりの頃は初めてのことだらけで大変でしたし、今でも改善すべき点はありますが、少しずつリピーターさまが増えてきてくださっています。「PHOEBE BEAUTY UP」はワンプロダクトだと思われている方もいらっしゃるようで、直営店に来て初めて他のプロダクトがあると知っていただくこともあります。Webだけだと全てのプロダクトを認知してもらうには限界があるので、リアル店舗だからこそのメリットだと思いますね。

経営者として、試行錯誤を繰り返す毎日

—【松嶋】ここからは尾﨑さん個人のお話もお伺いさせてください。お話をお伺いしていると、尾﨑さんは本当に経営者向きの方なのだろうと思うのですが、ご自身ではどうお考えですか?

—【尾﨑】人の下で働くことはできないので、経営者は向いていると思います(笑)。

真面目に答えると、会社の中にはさまざまな仕事がありますよね。その中でも、私がずっと見ているのは、プロダクトとブランディングなんです。自分のこだわりをプロダクトやブランド作りに反映できているので、好きな仕事ができているなと思います。経営者として大変なこともありますが、やりがいを感じますね。

—【松嶋】具体的には、どのような点が大変だと思いますか?

—【尾﨑】人に関することは難しいなと。コロナ禍でまつ毛美容液を多くの方に購入いただいて、会社が急成長したんです。それでメンバーを増やして会社を大きくしていこうなった時に、初期メンバーが数人辞めてしまったことがあって。「◯人の壁」という話をよく聞きますが、あれは本当なんだなと思いましたね。組織が大きくなると、その分さまざまな意見が出てくるし、マネジメントが格段に難しくなります。人が減ったら新たな人材を確保しないといけないし、同時に既存メンバーのケアも必要です。それが一番大変ですし、心身が削られるところでもありますね。

もう一つはお金です。キャッシュがギリギリになった時は、本当にどうしようかと……。売り上げ不足でキャッシュが足りなくなる時もありますし、売れすぎて発注量が増えたことで一時的にキャッシュがショートしそうになるといったこともありました。

—【松嶋】そこで得た学びはありましたか?

—【尾﨑】人に関しては、人数が増えると舵取りできなくなるので採用は慎重に、ですね。

組織作りって、これさえやっておけば大丈夫というものがなくて、正解がない。もともと10名ほどだったところから会社の成長に伴ってどんどんメンバーが増えて、社内の体制も大きく変わったのですが、この1年で組織作りの難しさを実感しています。どうすればいいのか道筋が見えているわけではないけれど、失敗例は明確にわかっているので、それを避けていくしかないのかなと。試行錯誤の毎日です。

—【松嶋】組織体制はどのように変更されたのですか?

—【尾﨑】10人だった頃は明確に役割を分けていなくて、その時は私も出荷作業をしていたんですよ。2021年ぐらいに人数が増えてからは、事業部制にしました。最終決定はもちろん私がしますが、事業部それぞれはマネージメントも含めて各部署のリーダーに任せています。より上流の仕事、経営者としての仕事にフォーカスできるようになって、やっとこのスタイルにも慣れてきたところです。

続けることが大切! 尾﨑美紀は前に進み続ける

—【松嶋】女性起業家として上場を目指されているとお聞きしましたが、どういった理由があるのですか?

—【尾﨑】女性起業家のロールモデルが少ないことに危機感を持ったからですね。女性起業家として最年少で上場したのは、Wantedlyの仲さんです。仲さんは当時32歳で、その後に20~30代の女性起業家で上場を達成した人はいません。加えて、私自身の体験として大変なこともたくさんあって。同じ事業をしていたとしても男性だったら言われないであろう言葉を、たくさん投げつけられてきました。「出産を機に辞めるのでは?」といった質問をされたこともあります。本気で取り組んでいるのに、なかなか信じてもらえなくて。

そういった背景もあるのか、自分の好きなこと、自分自身がペルソナになり得る事業で成功している国内の女性起業家は本当に少ないんです。だからこそ、私が下の世代のロールモデルとなりたいなと思いました。下の世代が活気付くことで、日本全体の盛り上がりにも繋がるでしょうしね。まだまだ数は少ないですが、最近は女性の起業家が増えていますし、私ももっと頑張っていきたいです。

—【松嶋】上場以外で、会社の今後について考えられていることがあればお話いただけますか。

—【尾﨑】海外にも展開していきたいですね。まずは東南アジアから展開していきたいなと。

あとは、ブランドももっと増やしていきたいですし、各ブランドの中のプロダクトも作っていきたいです。

—【松嶋】DINETTEの今後が楽しみですね。最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

—【尾﨑】大切なのは、とにかく続けること!

私が起業したばかりの頃は、同世代の起業家が活躍しているのを見て、比較をして落ち込むこともありました。でも、大変なときもずっと続けて乗り越えていくことで、確実に成長ができているはずなんですよ。例えば、1年前の自分だったら絶対できていなかったようなことも、今はできるようになっている。それに気付いてからは、あまり落ち込まなくなりました。いろんなことを乗り越えて実績や結果を出すことができて、それが自信につながっているのだろうなと。積み重ねが大事なのだと思います。起業するとなるとリスクを取らなきゃいけない。その分、リターンもめちゃくちゃ大きいです。女性起業家が増えているとはいえ、まだまだ少ないですし、女性起業家のコミュニティがもっと増えるといいなと思っています。

また「もう◯代だし、新しいことにチャレンジするのは遅いでしょうか」「出産妊娠もあり、満足のいくキャリアを形成できなかった」といった相談をDMでいただくこともありますが、年齢は関係ないと思います。自分の人生を振り返った時に「これをやっとけば良かったな」って後悔するのって、一番もったいないことですよ。失敗してもいいから、とりあえず好きなこと、やりたいことは全部やってみる。その失敗から学びがあれば良いんだし、自分のやりたかったことで頑張って失敗しちゃったなら、それはしょうがないって思えるはず。一緒に頑張っていきましょう!


【クレジット】
取材・構成/松嶋活智 ライティング/西村友香理 撮影/原哲也 企画/大芝義信

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URL https://dinette.co.jp/



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