全員が株主!成長を続けるTAKKの代表・湯浅卓氏に聞いた、ティール組織で挑む三方よしのビジネスモデルとは

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氏名 湯浅卓
肩書 TAKK株式会社 代表取締役
2004年からフリーランスとしてWEBデザイナーを経験。2008年から総合制作会社でデザイナーからディレクター、プロジェクトマネージャー、取締役兼ディレクター部門統括までを経験したのち独立。広報、ブランディング、映像、WEB、イベントなど様々なジャンルを手掛ける。TAKKの代表として、作り手だけでなく経営者の視点も生かしながら企業の広報戦略を支援。

TAKK株式会社は、企業とフリーランサーの双方にメリットのある循環型サービスを提供している会社だ。代表の湯浅氏が「本質的な仕事がしたい」との思いから2020年に創業し、現在まで順調に成長を続けている。「セルフ・マネジメント組織」を理念とし、メンバー全員が会社の株主であるのも大きな特徴だ。

本稿では、湯浅氏が語る「本質的な仕事」「セルフ・マネジメント組織」の詳細に迫った。

“本質的な仕事”をするため、独立を決意

—【聞き手:松嶋、以下:松嶋】最初に自己紹介をお願いします。

—【話し手:湯浅氏、以下:湯浅】TAKK株式会社の代表をしている湯浅卓と申します。社名のTAKKはアイスランド語で「ありがとう」を意味していて、私の名前の「卓」にもかけています。

2020年の1月に個人事業主としてスタートし、同年の6月に法人化しました。

—【松嶋】前職では取締役をされていたとお伺いしています。独立されたきっかけは何だったのでしょう?

—【湯浅】バンドの解散でも良く言われる、“音楽性の違い”のような方向性の違いですね。

私は20歳からWebデザイナーとして働いた後に、23歳で前職の会社に入社しています。入社時点では10人ほどでしたが、私が退職する際には350人にまで社員が増えていました。

—【松嶋】順調に会社が大きくなっていたのですね。

—【湯浅】ええ。当時、私は営業の統括をしていて、部下が150人ほどいました。沢山の時間働くなんて当たり前でしたし、平日は1日中仕事をしているような状態で(苦笑)。私だけでなく、部下も皆同じように激務でしたね。

そんな日々が続いて40代が目前に迫った時、「このまま仕事ばかりして人生を終えるのだろうか」と思ったんです。会社は順調に成長していましたし、給料も増えていました。しかし、プライベートのことを考えると、仕事ばかりするのではなく、ワークライフバランスを重視したいと思うようになりました。

また、会社としては売上を増やすために仕事の量を増やす、という考えだったのですが、私は売上の為だけではなく、“本質的な仕事”をしたいと思っていたんです。そこで、働き方を変えて自分が望む仕事をするために、独立しました。

—【松嶋】現在はご自身が望んだ仕事をされているのですね。

—【湯浅】そうですね。TAKKでは現在二つの事業を展開していて、一つ目は戦略広報です。言い換えると、企業の広報支援業務ですね。会社を宣伝するコーポレートPRや、会社の商品やサービスを宣伝するマーケティングPRの両面を支援しています。具体的には、広報ツールとしてWebサイトやパンフレットを作っている他、広報の戦略をサポートする戦略コンサルティングも行っています。大阪には広報事業部がない企業も多いため、広報事業部を作るところから支援するケースもありますね。

二つ目は、クリエイターの個人事業主を対象としたフリーランサー応援隊です。ビジネススキルを身につけるためのウェビナーを開催したり、戦略広報の中でクライアントからいただいた案件を、フリーランサー応援隊のユーザーに依頼することもあります。企業とフリーランサーの双方に貢献できる、循環型のサービスですね。

三方よしのビジネスで、個人事業主と企業にアプローチ

—【松嶋】事業の詳細についてお伺いしたいと思います。まずは広報の支援業務からご説明いただけますか。

—【湯浅】私たちは大手のクライアントを対象に、戦略広報を提供しています。関西には創業100年以上の老舗企業や、シェアNo. 1のメーカーなど、大手企業の本社が数多くあります。そういった企業の特徴は、非常に真面目な社員が多いということ。離職率が低く、積極的に会社貢献をしたいと考えている方が多い印象です。

ただ、業績が安定しているが故に、スタートアップのような革新的なサービスや新規事業が生まれにくい面もあります。いわゆる0→1に携わりたいと考えているような方だと、仕事にやりがいを感じにくい状況に陥っているケースもあります。

そのため、私たちが特に力を入れているのが、インターナルブランディングです。会社の理念を社内に浸透させることで、採用活動及び社員のモチベーション向上に貢献したいと考えています。

—【松嶋】具体的にはどのような方法を取られることが多いのですか?

—【湯浅】まずは広報チーム作りですね。経営層や部長課長レベルの方はもちろん、人事、総務、研究開発、営業など、各部署の社員をできる限り揃えます。その後、TAKKのメンバーとクライアントの広報チームで、社内報のような社内向けの広報物を制作します。

インターナルブランディングにおいて、広報物を広めることも重要ですが、何より大事なのは、“制作する過程”です。各部署の社員が広報チームとして他部署の方とコミュニケーションを取ることで、それまでは見えていなかったであろう社内の状況を知ることができるんですよ。それは広報チーム以外の社員も同様です。

—【松嶋】社内のコミュニケーションも活発になりそうですね。

—【湯浅】おっしゃる通りです。社内広報として定番の広報紙を作る以外に、動画制作をサポートすることもあります。過去には、一般家庭の夕食の様子を放送する某有名番組のパロディーとして、オリジナルのしゃもじを持ってカツラをかぶった広報チームの社員が、他部署に突撃取材するという動画も撮影しました。

—【松嶋】それは面白そうですね(笑)。

—【湯浅】社内での評判もよかったとお伺いしています(笑)。それ以外に、社内報の記事テーマを企業理念にして「社員みんなで自社の企業理念を考えよう」と呼びかける記事を制作したこともあります。

そういった取り組みの何がいいかというと、上司から指示されて動くわけでなく、チームとして自主的に取り組むことで、広報チームのモチベーションが上がるんです。そういった思いは社内にも広がっていきますし、結果として、離職率を下げるだけでなく、日々の生産性向上にも繋がるんですよ。

TAKKとしては、そういった仕掛け作りを担当しています。

—【松嶋】フリーランサー応援隊についてもお話いただけますか。

—【湯浅】フリーランサー向けに、見積書や契約書の作り方、営業の仕方など、ビジネススキルをウェビナーで教えています。

そもそも、私は20歳から広告やデザインの業界で働いていて、ライターやカメラマン、デザイナーなど、フリーランサーとも仕事をしてきました。その中で常々感じていたのは、彼らのレベルの高さです。ただ、企業相手に提案したり、営業したりといったコミュニケーションの部分に苦手意識のある方が多いという点が気になっていました。

企業での就業経験がない方もいらっしゃいますし、技術があるにも関わらず、取引ができずに損をしている方も少なくないでしょう。そこで、フリーランサーのビジネススキルを向上することができれば、彼らの社会的価値を上げられるのではないかと考えたのです。

—【松嶋】どちらの事業も近いことをされている企業はあるように感じたのですが、他社との違いは何なのでしょうか?

—【湯浅】フリーランサー応援隊でいうと、クラウドソーシングの仕事依頼サイトと比較されることが多いかもしれません。ああいったサービスとの大きな違いは、教育に力を入れている点ですね。

私たちが教えているカリキュラムは、企業側からすると本当は教えたくない内容なんですよ。内容を見たら「そんなことをフリーランサーに教えたら、交渉しづらくなってしまう」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちとしては企業とフリーランサーが対等な立場として働けるような世界にしたいと考えています。

近年は国としてもフリーランサーが安心して働けるようにとガイドラインを設けていますし、私たちが望む世界を実現しやすい環境が整ってきていますね。

—【松嶋】自社の売り上げ向上だけを考えるのであれば、フリーランサーにそういった教育をするのは逆効果ですよね。

—【湯浅】ええ。しかし、私たちは「三方よし」を意識しています。売り手と買い手にメリットがあるのはもちろん、社会貢献もできるビジネスですね。

戦略広報についても、3~5年以内にTAKKを解約してもらうのが目標です。最終的には、弊社がサポートする必要がないほどに、クライアントの力だけで広報チームが成り立つ状態を作りたいと考えています。

—【松嶋】ビジネス的に考えると、TAKKにとってはメリットが少ないようにも感じますが……。

—【湯浅】長くお付き合いいただいた方が、会社の売り上げは安定しますね。しかし、それは本質的な仕事ではないと思うんです。戦略広報の本質は、クライアント自らが経営戦略に基づいた広報を構築し、運営ができるようになることです。

独立した理由として「“本質的な仕事”がしたい」と言ったのは、まさにこのことですね。一見するとメリットが少ないようにも感じますが、最終的には本質的な仕事をした方が利益にも繋がると考えています。

マネジメント職を経て辿り着いた、理想の「ティール組織」

—【松嶋】TAKKは経営理念として「セルフ・マネジメント組織」を推奨されていますね。

—【湯浅】はい。私はティール組織を作りたいと考えていて、その考えに沿った企業理念にしています。

前職で150人ほどの部下がいた時、全員の給与査定をしたことがありました。1人30分程度の面談を行う中で、モチベーションのある社員は、自らの希望を語ってくれます。一方で、モチベーションが低い社員は、会社への苦情の方が多いんです。

当時の私の仕事は、後者のモチベーションをいかに上げるのかを考えることでした。ただ、個人的にはこういったことを考えるのが苦手で、10年ほどマネージャーをしていた中で、何のためにやっているのかわからなくなった時期もありましたね。

その際、マネジメントが存在しない組織について調べる内に、ティール組織を知りました。本を読んで感化され、自分でセルフマネジメント組織を作りたいと思い、立ち上げたのがTAKKなんです。

—【松嶋】湯浅さんの理想が、企業理念に込められていると。

—【湯浅】おっしゃる通りで、メンバーには「TAKKにマネジメントは存在しないよ」と言い続けているんですよ。

もう少し詳細をお話しすると、TAKKでは財務諸表や口座の金額など、会社経営にまつわる数字の全てをメンバーに公開しています。会社にいくらお金があるのか、私も含めた全員の給料明細、経費の内容まで、全てです。

そうすることで、一人ひとりが会社の経営を意識できるようになります。逆にいうと、こういった環境がなければ、セルフ・マネジメント組織は実現できないと思います。

—【松嶋】TAKKでは2022年6月よりメンバー全員が会社の株主でもあるとお伺いしました。なぜそのような体制にされたのですか?

—【湯浅】メンバーからの提案がきっかけです。

TAKKは5月末決算で、2022年5月に忘年会をしていた際に、メンバーの一人から「会社に投資したい」「株主配当が欲しい」と言われたんですよ。彼らは決算書も見ていますし、会社の利益を自分の給料にすることも可能です。また、従業員の場合は給与と株主配当の税率合算で税率が上がってしまうため、お金のことだけを考えるのであれば、その提案は彼らにとって得ばかりではありません。

しかし、彼からの提案は「上場企業のクライアントに対しては、戦略広報事業によって売り上げ向上に貢献できた分、株主配当をもらうビジネスをしたい」という内容でした。要は、現在の月額報酬をやめて、成果報酬にしたいと。「その練習をTAKKでやりたい」と言ってくれたんです。

—【松嶋】面白いですね。その提案がメンバーから出てくるのも驚きですし、それを承諾する湯浅さんもすごい。

—【湯浅】経営が傾いても会社が潰れるまで給料はもらえますが、配当だと赤字の場合はゼロですからね。その提案を受けて、彼らには経営者としてのマインドが備わっているのだなと嬉しく思いました。

—【松嶋】TAKKがそのような人材を集められている秘密は何だと思いますか?

—【湯浅】フラットであることを重要視しているのはポイントかもしれません。メンバーは全員が株主で、私は大株主ですし、法的な見方をすると厳密には完全なフラットではありません。

ただ、私が大切にしているのは、コミュニケーションや社内の権限が一人に集中することのない環境です。例えば、売り上げが目標に達していないメンバーがいたとしても、会社はチームで動いていますし、他メンバーの売上でカバーできますよね。誰かが辛い時は誰かがサポートする。そういった時に上から目線で施しを与えるのではなく、私を含めてみんなが平等な立場で話し合えるような、そういったイメージですね。

—【松嶋】副業も推奨されているそうですね。なぜそのような取り組みをされているのかについてもお伺いしたいです。

—【湯浅】副業というよりは、個人事業主も経験してほしいと伝えています。実際にTAKKには個人事業主としてタコス屋をして売り上げを立てているメンバーもいるんですよ。SNSでの集客もしていて、そういった経験はTAKKの業務にも活かしてくれていますね。

—【松嶋】副業を禁止する企業も少なくないですが、メンバーが個人事業主としても活動することで、会社にとってもメリットがあるんですね。

—【湯浅】それもありますが、1番の狙いは「個人で働く」「会社で働く」その両方のメリットを感じてほしいということです。経験してみないと、わからないことも多いですからね。

50歳でのリタイアを目指し、会社の更なる成長にアクセルをかける

—【松嶋】今後の展望があれば、ぜひお聞きしたいです。

—【湯浅】現在TAKKは3期目で、5期目にはメンバーを10人にまで増やし、売り上げ2~3億円を達成することが目標です。個人としては、11年後の50歳になった時には、プレイヤーとしてリタイアしたいと考えています。10人のメンバーが、私抜きで会社を運営するような体制にしたいですね。

—【松嶋】50歳はまだまだ働き盛りだと思いますが、なぜそこでのリタイアを考えられているのですか?

—【湯浅】冒頭で「ワークライフバランスを重視したいと思った」とお話ししましたよね。それに繋がっていて、週5日働いて週2日休むというスタイルを、逆にしたいなと考えているんです。週2日だけ働いて、週5日は趣味のキャンプや釣りをしたいなと。

実は具体的なイメージができていて、リタイアした後には、「広報チーム作り」「戦略広報」「メディア向けのPR」の3軸で、それぞれに特化した会社を作ってグループ会社にしようと計画しています。各会社の規模をどうするかはメンバーに任せたいですね。10名でも100名でも、代表になったメンバーが自由に会社を育てていってくれたら嬉しいです。

—【松嶋】なるほど。とはいえ、まだまだしばらくは現役で働かれるということで、会社としての現状の課題や今後の展開について予定されていることはありますか。

—【湯浅】メンバーを10人に増やして売り上げを3億にするためには、人材を増やして育成しなくてはいけません。そうなると、それを実現できるだけのクライアント数が必要です。今の課題はクライアントをいかに増やしていくかですね。

戦略広報の重要性を把握していない方もいらっしゃると思いますし、会社として、そういった発信を積極的に行う必要があるなと考えています。

また、仕事の質を向上させるためには、より多くのクライアントと関わることが重要です。同じ企業は二つとないですし、それぞれに合わせたコンサルティングができるように、私たちとしても経験を積んでいきたいですね。

—【松嶋】フリーランサー応援隊ついて、何か計画されていることはありますか?

—【湯浅】コミュニケーションが増えるサービスを提供したいなと考えていて、来年リリースする予定です。ウェビナーの開催だけでなく、朝会や夜会を開催するなど、リアルでのコミュニケーション機会を提供するイメージですね。

フリーランサーは相談できる相手が少なく孤独になりがちですし、コミュニケーションでしか養えないスキルもあります。フリーランサー応援隊を通して、新たな輪を広げたいです。また、新サービスを提供するにあたり、100人に1年間無料プランをプレゼントしようと考えています。

—【松嶋】それは素敵なサービスですね。

—【湯浅】現在フリーランサー応援隊のメンバーたちにはSlackを解放していて、相談も随時受け付けています。将来に迷っているという内容のメッセージをいただくこともありますが、そういった相談を聞くのも好きなんですよ。彼らが上昇していっている姿を見ることが私のモチベーションにも繋がりますし、この事業を通して、より多くのフリーランサーが活躍できるようにしたいですね。

急成長中のTAKKのこれからに注目

—【松嶋】「今売り上げが伸びているんだから、10年後にはもっと伸ばすぞ」「売り上げたお金で新しいことやるぞ」と思う経営者も少なくないと思います。湯浅さんはそういった考えはお持ちではないですよね。

—【湯浅】私は自由が好きなんですよ。誰にも縛られたくありませんし、自分がやりたいことは全力でやりたいんです。自分が自由にやりたいと思っているからこそ、周囲の人が自由になれる仕組みを作りたいのかもしれないですね。

稼ぐために働く選択があるならば、稼がず働かない選択もあります。それを誰かに強要されることなく、自分で選べるような人を増やしたいといいますか。とはいえ、私からメンバーに何かを強要することはありませんし、それぞれにベストな選択ができるようになってほしいですね。

—【松嶋】最後に読者へ向けたメッセージをいただけますか。

—【湯浅】社内のモチベーションアップや外部からの問い合わせ増加、売り上げ向上など、戦略広報にはさまざまな効果があります。社員のモチベーションが上がることでマネジメントコストも下がりますし、日々の生産性をあげることにも繋がるでしょう。製品開発や営業以外に、広報やPRで売り上げを上げることも可能ですので、ご興味のある経営者の方は、ぜひご連絡ください。

また、TAKKは積極的に採用もしています。創業3期目でスピード感もありますし、コアメンバーとして活躍できる環境があります。経験者じゃなくとも歓迎していますので、セルフ・マネジメントやティール組織に関心があり、質の高い仕事をしたいと考えている方からの連絡をお待ちしております。

Company
企業 TAKK株式会社
所在 大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス31階
URL https://takk.tech/



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